美少女注意報
目が覚めた途端、目に映ったのが超絶美少女だったとしよう。嬉しいか?
俺だったら嬉しいね。嬉しいがこの状況はなしだ。ありえない。なにしてんだこのバカやろう。 このオレ石田圭が鳥のさえずりでもなければ、目覚ましの暴走音でもなく、ホントにただ自然になんとなく目覚めたら、見た目美少女の超絶問題児こと石田優のやつがオレの布団にもぐりこんでやがったわけですよ。 まったくとんでもない目覚めである。 これが優じゃなくて、姉の石田夏帆だったしたら、違った意味でビックリ仰天しただろう。勿論嬉しい方で、だ。大学生の夏帆姉は牛の神様にでも愛されているかのごとく、そのお胸がとんでもないサイズになっているのである。 それに若干天然入ってるしな。寝ぼけて触ったしても絶対にばれないだろう。否、ばれなかったと言い直してやろう! しかしその夏帆姉も今や、オレではない別の男のものである。なんてことだ…。オレはあんな奴に姉をやる気はない。代わりに優を貰ってくれ。頼む! 今なら100万円をつけてやってもいい! 「おはよう、お兄ちゃん」 「ああ、おはよう…」 そんなあり得ないIFを想像していたら、優のやつが目を覚ましたようで、甘ロリボイスでこの挨拶である。朝っぱらから頭痛がするわぁ……。 「じゃねえよ! てめえは朝から何してやがる! てか、どうやって部屋に入った!」 これが初犯ではないのだ。何度も何度もこれだからこそオレは対策をとった。カギをかけ南京錠をつけたのだ。理論上これで入れるわけがない。にも関わらず現実は非情である。どうなってやがる。もしや壁をぶち抜いたのか? それともこいつは忍者で壁抜けか? あるいは魔法使いで空間転移か? 超能力者でテレポートなのか? どうやってこのオレの生み出した完璧なる密室を破りやがったんだ…!? 「違うよお兄ちゃん。どうやって入ったのかじゃないの。お兄ちゃんが眠るまでクローゼットの中にいたんだよ」 なんだと…! まさか初めから中にいたが正解だなんて誰が思うんだよ! てか何時間そこにいたんだお前!? 今度から寝る前に部屋の中までチェックしないといけなくなったのか、うおおおおお……。オレの平穏どこいきやがったんだ……! ◇ 「制服に着替えるからこっち見ないでね……、見てもいいけど」 「……自分の部屋で着替えろよ」 「ごめんね、今、私の部屋散らかってて、今日片付けるからさ」 着替えるスペースもないとかそんなの嘘に決まってやがる。適当な言い訳を用意してここで着替えることに同意させようとしているに違いない。つーか、ちゃっかり制服まで持ちこんでやがったのか。平然とオレのクローゼットから女子制服が出てくる光景には戦慄を覚えずにはいられない。 「着替えるならさっさと着替えろ」 「ちょっとくらい見てもいいんだよ? ほらほら」 とパジャマのひらひらとめくるバカ。 「夏帆姉ならともかく、お前の着替えなど見ても毒意外のなんでもねえ」 まだ和美の方が可愛げがあるわっ! 「ひどっ!」 「って、お前ブラなんてつけてんかよ!」 「何気に見てる…!?」 「どうせAAAが限界なんだからそんなもんいらねえだろ!」 「さらに酷いよ! 私毎日牛乳飲んでるもん!」 「牛乳飲んで胸が成長するわけねえだろ!」 「お兄ちゃんが揉んでくれたらきっと成長する!」 「しねえよバカ! いいから早く着替えろ! じゃないと廊下にそのまま叩き出すぞ!」 同じセリフを夏帆姉に言われたら、オレは喜んで胸を揉んだと思う。まったくもって困ったオレである。だがオレも男。そこに桃源郷があれば手が伸びてしまうのも仕方なかろう。オレには彼女なんていないしな。……ああ、いつか彼女できないかなぁ。 こいつがオレと同じ高校に進学する、と聞いた時、我が家族とはいえ落ちろ落ちろと祈ったのも懐かしいね。せっかく初詣で1万円札を放り込んだというのに完全に無駄になってしまった。それもこれも優のやつがお年玉を全部放り込むなどという暴挙にでたせいである。オレの願いは完全に神様にスルーされ、全力で優の望みを叶えにいったのだ。なんてこった……神の世界も重要なのは金ってか! 髪形をツインテールにするわ、金髪にするわ、家の中で絶滅危惧種のブルマをはくわと、連日いかれたことをしているわけだが、実に残念なことにこいつの頭まではいかれていなかったらしい。上から数えた方が早いくらいの成績で入学してきやがったのだ。こいつは。この石田優というやつは! そして4月になり、こいつが去年クラスで見た女子が着ていた制服とまったく同じ服を着て入学式に行こうとしている姿を見る羽目になったのだ。こいつをどうにかすることが可能な校則はないのかっ! と生徒手帳をめくってみても、余裕をもって登校せよ、制服で登校すべし、土足厳禁などどうにも役にたたんものばかりだ。くそったれ! とオレが生徒手帳を投げる気持ちを誰か理解してくれ! 「お兄ちゃん、朝ごはん食べないの?」 「食べる」 おっと、どうやら優に関して回想なんてものをしていたようだ。実に無駄に時間を使ったな……ああ、まったく。目玉焼きを潰しながら、苦虫をかみつぶしたような顔をするはめになった。 「ゆうちゃんおっはよー」 「おはよう、お姉ちゃん」 夏帆姉が起きてきたようだ。これでまだ起きてないのは今年から小学6年生になる妹、和美だけである。 「あー、またけいちゃん変な顔してる」 「全部こいつのせいだ。優のせいだ」 「もう、すぐに人のせいにするんだからー。ダメだよ、そう言うの早く直さないといい大人になれないよ」 「注意するならオレよりも先にあいつをなんとかしてくれ」 可愛らしい手つきでオムライスを口に運んでいるこいつだ。こいつをなんとかしろ! こいつは自分の容姿を利用してあり得ないことを仕出かした悪なのである。 中学時代の文化祭で開かれたミスコン、こいつがエントリーしてると知ったオレがお茶を吹いたの仕方ないことだろう。それがクラスの女子にかかってもめたことも含めて、頭の痛い思い出だ。しかも泣きっ面に蜂とはよく言ったもので優のやつは優勝しやがったのだ。 どうすんだよ、取り返しつかねえぞ! 「ミスコンで優勝したんだって? 美人の妹がいて羨ましいな。うちの妹なんて生意気で……」 お陰でこんなことを言われる始末だ。本当に頭痛がするわぁ……。 ◇ 「頭痛がするわぁ……」 オレと優が同じ高校にかよっているということは、つまり一緒に登校なんていうイベントが発生するわけである。すべての準備が何気にオレよりも早い優のやつは、オレをずっと待っているのだ。どれだけ遅刻しそうになってもな。ギリギリになって仮病を使って休んだ時なんて一緒に休むほどだ。あの時ほど心休まらない時はなかったね、まったく。 「よっ、圭。それとおはよ、ゆうちゃん」 「おはようございます、藤原先輩」 1年の時に知り合った高校初の友達である藤原智樹と長い坂の下で出会った。オレ達の通う高校は、この坂を登り切った先にまるで魔王の住むラストダンジョンのようにどーんと存在しているのだ。車でぶーんといける教師が羨ましすぎるぜ。せめて原付登校ありにしてくれ、頼むから! 「オレにはよっ、でこいつにはおはよか。扱いの差は一体何だ、このやろう」 「カワイイ子には優しいのがオレのポリシーなわけ。野郎に挨拶なんていらねえ」 男女平等という言葉は最早形骸化してるとしかいえんな。みな、知っているのに実戦してるやつがいなさすぎて悲しいね。まあその筆頭がオレであるのだから、それを悲しむ権利など本当はないんだろうけどな! 「カワイイですか、私?」 「カワイイよ、圭だってそう思うだろ?」 「………………見てくれだけは認めよう」 ちなみに声もな。お陰で初見で優という存在を見抜くのは不可能に近い。問題は見た目じゃない。中身だ。中身にさえ問題がなければ、オレはこいつを否定する要素がなくなるんだぜ。 むしろ自慢に思える要素満載だろうね。いやはや、神様ってのはどうしてこんなにムカツクことばっかりするんだろうね。 理不尽な世界の怒りはどこにぶつければいいんだ? 神社か? 寺か? それとも教会か? 絶対的な権力を持って高みでの見物とかふざんけんなっ! 本当は優をぶん殴ればすむ問題なのかもしれねえ。だが、家族に暴力を振るうのは違うだろ。人間、言葉が話せるんだ。コミュニケーション能力が低いオレだって家庭の問題くらい言葉で解決したいんだよ。こいつが卒業する前になんとかしないとな。こいつのためにも。そして、それ以上に危険な目に遭いそうなオレ自身のためにもなっ! ◇ 時間は思いっきり跳び昼休みだ。別に授業中のことで語ることなどない。いや、優のいない心休まる時間だったよ。とだけ語っておこうか。 クソつまらん授業中など寝てたわっ!! 古文とかなんだよあれ。火星語かなんかの間違いだろ。そうに違いない。あれが地球語であることをこのオレだけは認めないぞ。仮に地球後であったとしても、あれが日本語であるはずがない。去年古文のテストで赤点とったからそんなこと言ってるわけではないからな。ここテストに出るから覚えておけよ。 弁当を持った優に襲撃され、そのまま屋上へと拉致られた。入学式から1週間後の今日である。優一人なら逃げることなど容易ではないにせよ、不可能ではない。しかし今日に限ってやつには援軍がいたのだ。優と一緒にやってきた女子2名に捕まったオレは抵抗空しく連行されたのである。 たったの一週間でもう友達ができたのか、ははっ、違った意味でむかつくな……。 「はい、お兄ちゃん。お弁当」 昨日のうちから色々と準備してあったらしく、その弁当はオレが朝の支度をしている僅かな時間に完成していた。………バカなっ! こいつは昨日クローゼットに潜んでたんだろ。一体どれだけ前から準備してやがったんだ!? くそっ、頭痛がするぜえっ!! 弁当を受けたったオレは無言で優の隣に腰を下ろす。わざわざビニールシートを敷いてのミニピクニック状態である。 そうだお前ら、ピクニックとハイキングの違いは分かるか? 前者が遊び、後者が真面目な行事だと認識していればオッケーだろ、多分な。 優に優の友達3人にオレ1人。 つまり第三者視点でものを語るとすると、このビニールシートの上に男はオレ1人なのである。ハーレムだぜ! ふはははははっ! とかオレには似合わねえ……。針のむしろだろこの状況。 「オレ、邪魔なんじゃないか?」 「いえ、そんなことは……」 「そうですよ。ゆうさんのお兄さんには一度会ってみたかったですし」 「ゆうちゃんっていっつもお兄さんのことばかり話すんですよ♪」 「あはは」 あははじゃねえよ。ホント、余計なことしないでください。お願いします優様。 弁当うめー。料理は上手いんだよな、こいつ。そこは素直に認めよう。しかしなぁ……やっぱり普段の言動に問題がありすぎる。オレには耐えられん…。ちらりと見た優のツインテールが僅かに揺れる。 どうして神はオレだけにこんな何の意味もない試練を用意しやがったんだ。前世のオレ、悪魔かなんかっすかねえ。だったら仕方ねえ、仕方ねえよな。ああ……泣きてえ。頭痛がヤバイ。 「先輩に彼女さんはいないんですか?」 「いや、いねえけど」 幼馴染の瑞希はオレの気持ちを裏切って、別の男と付き合いだして今じゃ2人そろってここじゃない別の高校に通ってるみたいだしな。てっきり両想いだと思ってただけにショックは大きかったよ。ま、昔の話だ。 「でも、お兄ちゃんを狙って人って結構多いんだよね。近付かないようにきょうはk、じゃなくて牽制するのも結構大変なんだよ」 「そ、そうなんだ……」 「お兄ちゃんは私のものなんだから、とっちゃやだよ♪」 お・ま・え・の・せ・い・だ・っ・た・の・か!!! まさか、瑞希もこいつが…!? 「キョウダイで愛し合うなんて……ああ、でもいいかも」 「いや、よくねえだろ」 「応援してくれるの?」 「本当は止めるべきなんでしょうけど、ゆうさんの気持ちは本物みたいですし……」 止めろよ、そこは常識をぶつけて無理にでも引き離してくれよ! 友達だろ! お前ら優の友達なんだろ! 変な道に進もうとしてるんだ、襟首をつかんででもやめさせろ! 「禁断の恋……ああ」 だめだトリップしてるやつもいて止めるとかそんな状況じゃねえし! 類は友を呼ぶってことか! さすがは優の友達。思考が普通じゃねえ!! ◇ 昼休みはある種の精神的拷問だったが、時間は勝手に経過するものである。いつもは時間がないとか言ってるが、今日に限っては助かった、時間さん勝手に流れ去ってくれてありがとう! そして放課後である。 オレは卓球部でレギュラーになれない地味な部員として、日々頑張ってるんだよ。優のことを忘れて汗を流せるチャンスなんだよ。部活で汗を流して、友達と駄弁ったり、コンビニに寄ったりしつつ帰宅した。 「あ、お兄ちゃん、おかえりなさい」 帰って早々にオレは浮遊機雷と遭遇することになる。もう爆発したね、これ。とんでもない格好をした優が台所にたっていた。神は死んだ……。頭痛がすらぁ……。 「お兄ちゃんこういう格好好きでしょ?」 夏帆姉やお前の友達なら許せるが、貴様がその恰好をするなど万死に値するぞ! 「いいから服を着ろ、このバカっ!」 「ええっ!?」 裸エプロンとかもうな……前言を撤回してやる。こいつは頭もいかれてたみたいだ。まさに我が家のバカやろうもといバグやろうである。 「お前には常識というものがないのかっ」 「あ、そうだね……」 「分かればいいんだ」 しゅんとして、今日はもの分かりがいい? なんだ、いつものお前らしくないじゃないか。と心配しそうになったが、やっぱりこいつはいつも通りだったよ! 「セオリーを忘れてたね。お兄ちゃんおかえりなさい、お風呂にする、ご飯にする、それともわ・た・し?」 「死ねっ!」 一瞬でもお前を心配したオレが愚かだった! 夏帆姉がやるのなら可愛らしくていいが、お前というやつはっ! 最早矯正は不可能なレベルか…!? 物理的に抹殺しないといけないレベルなのかっ!? 「ひどいよ、お兄ちゃん。これ、結構恥ずかしいんだから……」 だったらやるなよ。てか頬をちょっとばかり染めるなっ! やめろっ、こっちにくるなっ! 「さっきのアレはそうだ、全部外で済ませてきた!」 「嘘だっ! お兄ちゃんが外で済ませられるのなんてご飯だけじゃない!」 その通りであった。わざわざ銭湯に行く理由もなければ、彼女もいないんだしな。こいつのせいで!! 「てか今日はお前しかいないのか?」 「お母さんとお父さんは仕事で遅くなるって電話あったし、お姉ちゃんは明日休みだから彼氏の家に泊まるって」 か、夏帆姉……。まさか、今夜はあれですか、お楽しみってやつですか……! あ、あの男。オレの中での抹殺したいやつリストのナンバーワンだぜ。勿論ナンバーツーは目の前にいる、裸エプロンツインテールだ。 「和美は?」 「友達の家に泊まるって」 「お前なんかしただろ?」 「和美ちゃんは自主的だよ。お兄ちゃんと仲良くねって言ってた」 変な方向に気のきく小学生だった。ませてるなぁ、まったく! もっと常識的な方向に気をきかせてほしかったぜ!! 「取り敢えず、腹減ったから飯だな」 「ご飯だね、了解」 「その前に服を着ろ。着ないとオレはコンビニで買ったカップ麺を食う」 ◇ 「ねえお兄ちゃん、一緒にお風呂はいろ」 「お前は唐突に何を言っている……?」 「ご飯食べたし、後は一緒にお風呂にはいって、その後に私を堪能するだけだよ」 「オレ、今から家出する」 こいつに付き合ってるといろいろと大事なものを失いそうだからな。 「待って、お兄ちゃん。……大事な話があるの。真面目な話だから相談に乗って欲しいなぁって」 上目遣いでこっちを見るな。変な気持になるだろうがっ! だが、なんだ、まあ、兄貴として頼られてるのなら、そこは応えるのが男ってもんだろう。 言っておくがこいつの全裸になど興味はない。夏帆姉ならともかくな。和美? 小学生じゃねえかよ。オレはロリコンじゃねえっ! 「仕方ねえな」 てなわけでオレは嬉々として優に風呂場へと連行されたのである。選択を間違えた感じがしないでもない。湯船につかり、背中合わせになりながら問う。 「で、相談ってなんだ? てか今更だがお前と風呂入る意味ねえよな」 「こっち向いて」 話をする時は顔を見ろっていうしな。背中合わせのままじゃダメだろうな。分かってるよ。オレの後ろにはバスタオルすら纏っていないすっぽんぽんの優がいる。うんまあ、だからどうしたって感じだが。夏帆姉なら(ry とにかく狭い浴槽の中で体を回転させ、優と向きあった。 途端に優は立ち上がる。つまり、……そういうことだ。全部丸見えだぜ。 お前にくっついてる男の象徴とかな! ご理解いただけただろうか。オレがこいつを頑なに否定する理由が。そう、こいつは見た目美少女の分際で本当は男なんだよ!こいつの名前を思い出せ! 優だ! みんなゆうちゃん、ゆうちゃん言ってるから勘違いしてるかもしれないから、オレが正しておいてやる。 こいつの名前は優と書いて『すぐる』と読むんだよ! 見た目通りの美少女で妹だったのなら、もしかしたらオレは過ちを犯していたかもしれん。しかし見た目美少女でも実際には弟だぜ? 真実を知ってる身としちゃ精神的にキツイだけだぜ。 夏帆姉は優に甘すぎるし、和美は別にいいんじゃね、私に被害ないしと知らんぷりだ。うちの家族はオレを生贄に捧げて何を召喚するつもりなんだよっ!!!! 「あのね、これ取っちゃおうと思うんだけどどうかな」 「………………」 生物学的には雄にしか存在しない部分を指さしながら、そんなこという弟に絶句する兄という図が完成した。 おう……。 そんな相談オレにするんじゃねえ……。このオレ、石田圭の受難はまだまだ続きそうな気配があるのだった。 そのうちオレ、精神的に病んで死ぬんじゃね? とか心配になってきたよ! ああ、頭痛がするわぁっ! |
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