夢の終わりに
メガロカンパニー主催のカバリア島で行われていた大規模なイベントは等々に終わりを迎えました。 メガロカンパニーの大規模な不正が発覚、逮捕者が続出し、あっという間に倒産してしまったことで。 「なんかもう本当に夢の島でした」 私の名前はりぜっと♪。レベル324のどこにでもいるうさこ。 そろそろカバリア島を退去しないといけませんが、私にはやり残したことがありました。それを終わらせるために私はここにいます。そう、タバスコ火山に。 暑い……もとい熱い、帰りたい。スノーヒルで滑り台でも滑っていたい……。と1分おきに思いつつもなんとかたどり着けました。 案内人だと思っていたら、実はネレイデスの配下だったクレターをボコり、一件落着? いやいや、暑さのせいで目的を忘れていましたけど私の目的はスパイシードラゴンの討伐だったような気がしないでもないような。ああ、でも、クレターが悪でスパドラは別に悪くないんだっけ? だめだ、もうなんでもいいや。 「スパイシードラゴンの力を押さえつけている拘束具を外しました。あなたに勝つことができますか」 クレタァァァッァ!! この女、何言ってるの!? 「グルルル!!」 そして闇の力を纏ったエペを引き抜き、ドラゴンと対峙する。呼び出した守護者とともに突撃。先手は貰いました! 「ダッシュ」を駆使して最速の一撃を叩き込んだ。 「あれ?」 涼しい顔をしているスパドラに驚愕を隠せない。まさか、鱗を貫けてない……!? 「こうなれば!」 並のボスなら一撃で仕留められる必殺の「ラッシュコンボ」をおみま――いしようとしたもののいきなりのテイルアタックに守護者共々吹き飛ばされてしまった。 「この俺様がいない間にクレターの奴がスパイシードラゴンの拘束具を外しやがったな」 あ、この人は新しいハンターマスター!! リヴィルだっけ?? 「俺様が片付けておくから引っ込んでろ」 きっとレベルキャップに到達していて、伝説装備で全身を固めてるに違いない。でもここでバトンタッチしていたのでは本当に何しに来たのか分からないので、私が戦う旨を精一杯告げる。 「そこまで言うのならやって貰おうか。だが、スパイシードラゴンに普通の攻撃は通らない」 バフとか言っちゃってるよこの人。とにかく水の力を得た私は再びスパドラに対峙する。水属性の冷凍マグロとかで殴ったら普通にダメージ通らないかなぁとか思いつつ、尻尾に警戒しつつ斬り付ける! 「グオオオオオ!!!」 ダメージあり! これはいける!! スパドラが自分に入ったダメージに驚いている間にこちらは追撃の「ラッシュコンボ」で四連撃をお見舞いする。ラッシュコンボは一撃ごとに威力が上がっていく技。最後の一撃を叩き込んだ際にはスパドラの巨体がバランスを崩し後ろに倒れかけた。ちぇっ、尻尾さえなければ……。 「さすがはスパイシードラゴン……! 必殺技でも倒せませんか!」 怒りのスパドラによる火炎放射の反撃で守護者が燃え尽きて私も丸焦げ。手持ちのポーションをがぶ飲みして生き永らえる。 「若いうちの薬漬けは寿命を縮めるぞ」 それから幾度となく打ち合うもスパドラには倒れる気配がない。こちらもポーションの手持ちが尽きそうです。 「止むを得ません。ワイルドカードを切りましょう」 自らのうちに眠る怒りと憎しみと、お金のない悲しみを全力で引き出して本能に身を任せることにした。「バーサーク」と呼ばれる強力な自己暗示を。 「ウガァァァァァ!!」 そして巨大な爪とリミッターの外れた重い剣撃がぶつかり合った。何を砕いた感触とともに意識が浮上する。もう何時間も戦い続けたような気がするけど、いいところ数分だと思います。 「これは……紫の宝石かなにか?」 砕け散った何かを手に取って呟く。そういえばスパイシードラゴンの一部がこんなのだったような……。 「おめでとう、と言っておくか」 リヴィルだった。リヴィルからのおめでとう、ということは私はあれを倒した、ということでいいのかな? 「えっと、ありがとう?」 こうして私の最後の心残りは消えた。もう、この島に思い残すことは何も……何も。 「なんでかな……何もないはずなのに。どうして私は泣いてるのかな」 たくさんの思い出が詰まったこの島を去る。それがこんなにも悲しいことだなんて……。カバリア島から出る船を前にして、私は歩みを進められずにいた。この船に乗ったら、全てが、全てが終わってしまう……! 「帰っても俺ん家ないお」 隣でとても悲しいことを呟いていたのは自伝?ピケランサーガのあの人だった。一攫千金を夢見てカバリア島にきたものの上手くいかずに遺跡でテント張ってニンジン生活していたあの人だった。 カバリア島ではいろんな出会いがあったし、こういうあんまり幸せじゃない人もたくさんいた。たくさんいたけどみんなそれでも一生懸命この島で生きていた。ああ、楽しかったなぁ。 初めてこの島に来た時のことを思い出した。始まりもここ、ブルーミングコーラからだった。最初から歩き難い岸辺でその次はもっと足を取られる砂漠のマリンデザートってなんだと思ったけど、ある意味あれのお陰で鍛えられた感じもなくはない……かな。 始まりがあれば当然いつか終わりがある。それが今日。それが今です。ここを離れたからといってすべてが終わるわけじゃない。友達との縁が切れるわけでもない。それに、きっと、ここにきた時と同じような新しい始まりだってあるはず。 「それでも船に乗るの?」 尻尾と耳を投げ捨てつつ船に乗る元狐を黙って見送りました。遺跡のテント生活はかっこ悪かったけど、最後の最後は無駄にカッコよかったなぁあの人。 「私も、最後はあああるべきかな」 そしてうさぎの耳を頭上へと放った。 「あ、がっつり剣とか持ってきちゃったけど、本土に持って帰ったら邪魔だよね……どうしよう? 海に投げ捨てる?」 |
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