ラルム・ドゥ・ソレイユ


 昼間は大人しくして、知り合いの目の届き難い夜の時間帯にだけ行動した。必要なものはコンビニで買えば済んだし、いざとなれば……犯罪にも手を染める覚悟はあった。

 寂しくないと言えば嘘。

 もう二度と麗夏に会う資格なんてないと思ってしまっていたのに、麗夏は私の前に現れた。家にすら帰らなかった私を心配した麗夏は、ずっと私を探していてくれたらしい。

「まさかこんなところにいるなんて……。目撃情報がなかったら絶対分からなかったよ」

 高校生くらいの女の子が夜に山を登ってるのを見た、とか証言した人がいたらしい。うぐぐ余計なことを……。

「心配したわー。もしかしたら誘拐されたんじゃないかって思ってたの。でも、無事でよかったぁ……」
「麗夏……」

 もう二度と麗夏とは会わないつもりだったのに……。
 でも未練は山ほどあった。二度と会わないとか言いつつ、ずっとこの町に居続けているあたり、私の覚悟の程が伺えるというもの。
 私は結局のところ、麗夏から離れることなんてできなかったというだけの話。両親? 我が家? 正直そんなものはどうでもよかったけど、麗夏だけはそんな簡単に切り捨てられなかった。

「麗夏……好きだよ、麗夏。私、今回のことで気付いたの。悔いは残したくないって」
「何言ってるのー、夏海?」
「なんでもないよ、なんでも。私の気持ちを伝えたかっただけだから。だから、もう、行くね」

 そして踵を返す。これで、いい。いいんだ。

「えっ、待って夏海。一体何が起こってるの? 行くってどうして?」

 パタパタ走ってきた麗夏に右腕を掴まれた。そんなことをされると私のせっかくの決心が揺らいでしまう。私は麗夏と一緒にはいられないと言うのに。

「あのね、麗夏……私ね、もう……」
「分かるように言ってよお願いだからぁ……」

 そんなふうに泣かれたら言えるわけがない。

――もう家に帰れないし、高校にもいけない。麗夏のいる世界では生きていけないからさよならだよ

 だなんて。

「あのね、麗夏――」

 だから全てを話そう。両親には話せなかったけど……麗夏になら。

 それが始まり。

 午前3時。消波ブロックの上に座って、麗夏と共に日の出を待っていた。少々早すぎた感があるけど、雑談するにはいい時間だと思う。暇な待ち時間だなんて私には思えない。麗夏がいてくれるのなら何も会話がなかったとしてもそこは幸せ空間だから。ただただ時間の経過に身を委ねているだけでも胸が満たされて、笑顔が勝手に飛び出していく。……ホントにそれだけでよかったんだよ。

「今まで……いろんなことがあったね」
「だねー、辛いことばっかりだったよね」
「私のせい、かな」

 あの時、私が話したことで麗夏を巻き込んでしまい、ついには後戻りできない世界へと連れ込んでしまった。後悔してないと言えば嘘になる。でも、一緒に堕ちると言ってくれたのはとても嬉しかった。それに、

「ねえ、夏海。キス、しよっかー?」
「ふぇっ!? き、キスってそんな……!」
「私のこと好きだって言ったのは嘘だったの?」
「いや、嘘じゃないけど!?」
「夏海はヘタレだよねー」
「えええ!?」

 それにあの時に恥ずかしながらも初めてのキスをしたんだっけ。ぶっちゃけあの時のことは頭が真っ白になってしまったせいで何も覚えてないけど。……ヘタレでごめんなさいね!!

「何言ってるのー? 夏海のせいのわけないよっ。それに私、後悔なんてしてないもん! 夏海と一緒にいれて幸せなんだからー!」
「私も麗夏がいてくれてよかった」
「あの時夏海が全部白状してくれたからねっ。あれがなかったら私達、きっとあそこで終わってたかなー」

 私達が昼夜逆転生活を送ることになってから既に半年が経過していた。

 あの時を境に通っていた高校にはいかなくなり、夜の街をただただぶらぶらと歩き回っていた。なんで私はこんなことしているんだろう? なんで学校に行けないんだろう? そう思う日々。
 好きという気持ちを伝えることすら出来ずにフェードアウトしなければならなくなった悲しみ。なんで自分は生きてるんだろうという絶望感。せめて、麗夏の顔が一目みたい。でも、麗夏に会ってしまったら私はきっと……。
 なんて考えて引きこもっていたら麗夏の方から会いに来てくれたんだ。

「ちょっと寒くないー?」
「いや全然」
「なーつーみー、寒いって言ってー」
「やっぱりちょっと肌寒いかな」
「だっよねー!」

 一抹の不安や寂しさを感じるという点を「寒い」と表現するのはありだろう。

「夏海、大好きー」

 ふわりと薄手のブラウスが揺らめき、私は麗夏の腕の中へ。
 私は麗夏のことが好き。愛してる。ああなって初めて私はそういう自覚を持つことができた。でも、ああならなかったとしても……、いつかは絶対に気付けた気持ちだと思う。
 麗夏のことが好きで好きでたまらない。今のこの気持ちは本物なんだから、こうならなくたっていつかは絶対に爆発していたはず。学校の屋上で夕陽に見守られながらの告白とかしてみたかった。

「ふふふー、夏海いい匂いー」
「ちょっ、やめて……お風呂入ってないんだから」
「そんなの気にしなーい。夏海は汚くなんてないからー! なんなら、なめてあげてもいいよー?」
「えっと、それはちょっと本気でやめてほしいなぁ……」
「夏海が望むのなら、私は何だってできるからー」

 胸に顔を押し付けられ、ぎゅうっと抱きしめられる。……うん、確かにいい匂いだ。ずっと、……ずーっとこうしていたいという欲求にかられてしまう。

「夏海ちょっとくすぐったいよ」

 麗夏が綺麗な瞳を向け、私に抗議してくる。

「あ、ごめんね。でも麗夏のせいでもあるんだからね」
「えー、そっかなー」

 夜の海は真っ暗で怖い。ずーっと見詰めているとそれだけで闇に飲み込まれてしまいそうな気分になる。かなり前に見た昼の海はキラキラしていて希望の象徴みたいに見えたのに。時計一週分時間が違うだけでこれ程までに差でるなんて不思議。海であることに違いはないのに。

「あ、見て夏海。あんなところにボートがあるよー」
「人は乗ってなさそうだね。ただ流されてるだけかな」

 明かりもない真っ暗な闇の中、確かにボートが浮いていた。見えないだけであの中に死体とか入ってたりして。だとしたら明日はちょっとした事件だろう。いや、死体なんてなくても事件かもしれないけど。

「いっちょ拾ってこようか」

 立ち上がりながら麗夏がそんなことを言う。正気か?

「初夏とはいえ水着もないのに海に入るつもりなの?」
「別に寒くはないよー」
「そりゃねえ……」

 さっきの寒い発言はなかったことになったのかな。
 全裸で水浴びする麗夏を想像してしまって急に恥ずかしくなった。私は脳内で麗夏になんて仕打ちをしてるんだ!! 全裸にしていいのはシャワーシーンまでだ! じゃなくて……!!

「ボート乗るならその辺から盗んできた方が早くない?」
「ふっふー、実はそこまで乗りたいわけでもないんだよー」

 こんな闇をずーっと凝視していると嫌でも昔のことを、半年前のことを思い出す。あの呪われた血の出来事を。血が出ていて痛いはずなのに気持ちがいい。薬でも打たれたのかと錯覚するような……強制的な快楽を。

――貴女が悪いんですよ。私の□□に**するから

 私を、ただの女子高生であった私を闇の底へと引きずり落としたあれを。

 何度となくかかってくる電話やメールのすべて無視していたら、ついにはケータイのバッテリーがつきたのでケータイは捨てた。
 あのストラップは麗夏がカワイイって言ってくれたやつだったけど、あの時は早く麗夏を忘れるべきだって思ったから。今にして思えばストラップは回収しておけばよかったなぁ……。もうどうしようもないけど。

「麗夏は初めて悪い事した時のことって覚えてる?」
「なんだっけー? 銀行強盗だっけー?」
「そんな目立つことは一度もやってませんからね!?」
「えーっと……コンビニで派手に万引きしてガラス破って逃げたんだっけー?」
「あー、そんなこともしたっけ」
「タクシー強盗して運転手をグサリだっけー?」
「刺してない刺してない」
「タクシーは全然お金にならなかったよねー」

 初めて行った悪い事、要するに犯罪は……ドアを破って鍵のかかった家に入ることだった。寝床はどうしても必要だったから。だから誰も住んでない家を狙って私達は侵入し、しばらくはそこを拠点に活動していた。

「今日は風が気持ちいいねー」

 海からの風で麗夏の長い髪が靡くいて、私の目を釘付けにした。私は夜目が利く為こんな暗闇の中でもばっちりとその姿が見える。どうせなら月明かりのようなオプションがあってくれれば、麗夏の綺麗さがもっともっと目立ってくれるたのに。あー、本当に、勿体無い。

 文字通りの意味で月下美人を見せて欲しかったなぁ。夜の花という意味でなら今の麗夏だけでもごちそうさまだけど。今夜はずっと曇っていて結局月が見れなかったのが残念すぎる。雲さえなければ、満月が見えたのに。
 満月の下、月明かりに照らされて消波ブロックの上で、髪を靡かせながらくるくると踊る麗夏の姿を幻視した。
 どうせならそんな姿を学校の屋上で見たかった。穏やかな風が吹く中、青空の下で行われる型も何もないふざけた踊りを。そこに私が乱入するんだ。踊っている麗夏の手を掴んで、私もその中に入るんだ。
 それで、二人で、くるくる。くるくる。最後には二人して屋上に寝転がって、雲を指出したりして。太陽の下での幸せを存分に味わって。それで……。

「もしも、もしもだよ」
「んー?」
「私達がちゃんと学校に通えていたら、私達の関係は今と同じだったのかな」
「同じだよ、勿論。夏海が私にコクって、私がえーっとか言いながら結局オッケーして、それでー」
「うん、そうだろうね。告白するのは私が絶対先だろうね」
「夏海がコクってこなかったら、きっと高校卒業するまで友情のままでー、それで大人になってから実は好きだったんだーみたいな未来がめっちゃ見えるよー」
「あはは……ありそうで困るなあ」

 そんなふうに未来で後悔するくらいなら、まだ今の方が幸せ。私達は不幸になっちゃったけど、恋人同士になれたのならそんなものは全部チャラだ。幸せすぎて生きてるのが辛い……って言いたいくらい。

「藤岡とかさー、私達のこと不純とか不潔とか言いまくった挙句におめでとうお幸せにとかいいそうだよねー」
「あー、そんな人いたね」

 おさげにメガネな委員長、藤岡澤子のことを思い出す。面倒見がいい人で、色々力になってくれたような。でも首突っ込みすぎな面もあったかな。

「私一人で十分だから帰っていいよ!」
「ナツ一人に任せておいたら職員室が戦場になるでしょう!」
「私はテロリストか何かかっ!?」
「レーカに心配ばっかりかけてる自覚ある? 一人よりも二人よ。いいからあたしの手を借りなさい!」
「ねえねえ、戦場にする気満々なのは澤子の方じゃないの?」
「いいかしら? たとえ教師だろうと間違いは断罪されるべきなのよ」
「わーお、澤子さん頼りになりすぎて私がいらない子すぎるぅ」

 学校で麗夏と恋人同士になって、澤子に祝福されたかったなぁ……。そして学校中で有名な百合カップルへと進化していく。……さすがにそれは恥ずい。あいつら付き合ってるらしいよ、まじでーみたいな会話されるのかと思うとちょっと嫌かもしれない。でも、そんな不安も麗夏が手を繋いでくれれば全部吹き飛んだりして。

 そんな、IF。そう、もしもの世界だ。
 麗夏とは違って澤子に会うことなんて二度とないし、学校に通うことも二度とない。家に帰って家族と対面することもない。

「澤子今何してるんだろう?」
「心配かけまくっちゃったよねー。最後にメールでも送っておく?」
「ケータイ持ってない」
「充電はー、大昔に切れましたー」
「でしょうね」
「やっぱ今頃は捜索願とか出てるのかなー」
「出てると思うよ。もう半年もこんなだし、死んだと思われてるんじゃないかな」

 警察かあ。仮にも私達は元女子高生。夜中に歩き回っていて声をかけられたことは一度や二度ではない。まあ、連れて行かれるわけにはいかなかったから全部振り切ってるけど。

「警察はさ、私達じゃなくてこんな時間にふらふらしてる男共を補導すればいいのに」
「あー、んー。この前のことー? いいお金になったよねー」
「まぁね」
「でも……」

 少し躊躇ってから麗夏は言った。

――皆殺しはやりすぎ、新聞に余裕で載ってたよ

 体目当ての男なんて死んだ方がいいとは思ってたけど、だからと言って本当に殺してしまうつもりはなかったんだ。あの時はお腹がいっぱいだったこともあって上手く加減ができなくて……。要するに、不慮の事故、だよ。

「両手がさ、血に染まってるのに何も感じないんだよね。私はやっぱり化物になったんだなぁって実感しちゃった」
「夏海は化物なんかじゃないよー! 化物は恋なんてしないし、愛なんて語らないもん!!」

 麗夏が両腕を腰に回して私に抱きついてきた。そして顔を私のお腹の辺りに埋めて、えぐえぐと泣く。

「夏海はー、私の大切な、たった一人だけの彼女なんだからー! たとえ夏海本人だって化物なんていわないでよおおおおおお、うえええぇぇぇん」

 お、大泣きになってしまったぞ。どうしよう……!

「ごめん、麗夏。もう言わないから……」
「夏海が……」

 顔を上げ、潤んだ真っ赤な瞳で私を見る麗夏。……かわいい。涙がかわいさに補正をかけてるのか、あるいは私の母性的な何かに訴えかけてくるのか分からないけど、涙目は卑怯すぎるかわいさだああああ!!

 我慢? なにそれ美味しいの?

 今度は私から麗夏を抱きしめた。もう離さない! いっそこのまま朝日をみるううううう!!

「ちょー、ちょっとーなつみぃー!!」
「あーもう、何その顔! かわいすぎる! 胸きゅんすぎるぅぅぅ!!」
「夏海が暴走してるぅぅぅ!!」
「こ、このまま食べてしまってもよかとですか!?」
「い、いいよ……」

 お外で、しかも消波ブロックの上でにゃんにゃんなんて始めての経験でした、はい。今はちょっとだけ反省していますが後悔はしていません。
 お互い全裸のまま日の出を迎えるのもありかなとは思ったけど、そろそろ人目につく可能性も出てきたので服を着ることにした。

「夏海のせいで大切な時間を無駄にしたかもー」
「待ってください麗夏さん。なんやかんやで私を脱がしたり吸い付いたりしたのはどこの誰だったのでしょうか?」
「さー、誰だったんだろーねー」
「ふーん、どうせ私が全部悪いんですよーだ」
「そうそう、まったくだよー」
「そこは冗談だよとか言ってくれるところなのではないでしょうか」
「見て、夏海。そろそろ……時間だよ」
「麗夏さぁん……」

 しょんぼりしながら視線を海の方へと向ける。海の向こうがうっすらと輝き始めていた。あれが太陽の光によって齎された輝き。ネオンサインなんかとは違う自然の光の美しさに心を奪われそう……。

「そっか、もう……そんな時間なんだ」

 もうちょっとで日が昇る。そして、これが私達が二人揃って見る最後に見る日の出となるだろう。太陽が昇れば……私達はお別れしないといけないから。
 先延ばしにすることなんていくらでもできた。だけど、これ以上こんな生活を続けていれば二人揃って壊れてしまう。お互い、壊れた姿なんて見たくなかったから、決断した。今日で、終わりにしようって。

 無言でお互いの顔を確認し、私達は抱き合った。お互いの体温を確かめ合い、心臓の音を確かめ合う。

「こんなでも生きてるんだよねー、私達って」
「そうみたい、ちょっと不思議だけど」

 朝日を横目に、私達は唇を重ねた。目を瞑るなんて勿体無いことはしない。私達は太陽を見るためにここに来たのだから。あれを見ないなんて選択肢はない。でも、パートナーも無視できない。中途半端だよね、分かってる。でも……。これが最適解だって思うから。

 ああ、体が熱い。先ほどまで感じていた「寒さ」が全部吹き飛んでいくような不思議な感覚。まるで指先が、髪の毛が、手が、足が、顔が、体が燃えてるみたいだ。
 私の体から発生した何か、粉のようなものがさらさらと飛ぶ。汗……ではなくそれは「灰」。私達の体は太陽の光に焼かれているのだから当然か。きっと1分もしないうち私達の体は燃え尽きることだろう。

 あの吸血鬼に血を吸われた日からずっと、私は太陽が見たかった。青空に憧れていた。でもソレが叶うことなんてなかったんだ。だって、私もまた人外の吸血鬼になってしまったんだから。

 全てを話した後、私は麗夏の血を吸って吸血鬼にした。吸血鬼がどんな生き物なのかは正直よく分からなかったけど、お互いに血を吸いあってさえいれば死なずに済むことに気付けたお陰で精神的には大分楽になれた。
 日光が弱点だという逸話は耳にしたことがあったので、昼間試しに外に手を出してみたら見事に大火傷。麗夏が凄く慌ててたけど、麗夏の血を吸ったら瞬時に再生して私の方がビビッた。
 人間をやめたことで身体能力の方も大幅に強化されたらしく、悪いことをするのは思いの外簡単だった。……そう、肝心のメンタルさえどうにかなれば。

 メンタルがどうにかなってしまったら、それはもう完全に人間をやめてるってことだよね。私は人間でいたかった。化物になんてなりたくなかった。どうせ死ぬなら人間のまま死にたかった。

「ねー、夏海。今度朝日でも一緒に見にいかない?」
「行く」

 そして今日に至るというわけ。
 もしも、麗夏がいなかったら、私はきっと精神を壊してただただ血を吸って暴れるだけの化物になっていたんじゃないかと思う。麗夏の愛が私を救ってくれたんだよ。ああ、麗夏……。

 目の前が真っ白に……そっか、終わり、なのかな。もう、目が見えない?

 これは夢だ。最後の最後に私が見た夢。
 私達は真っ白な空間にいた。

「麗夏はこんな終わりでよかったのかな」
「何が?」
「何がって……私に関わらなければこんなふうに死ぬことはなかったわけでしょう」
「まったくもー、いつまでたっても夏海は子供なんだからー」
「えっ、えー??」
「好きな人と一緒に死にたいって思うのってそんなに変かなー? 私さ、好きな人が行方不明になったままノウノウと生きてるなんてできないからねー。夏海と同じになれてよかったと思ってるんだからー」
「あっ、ありがとう…」
「どういたしまして。あー、でも、夏海をこんなにした吸血鬼の親玉は藤岡っぽく断罪しとけばよかったねー」
「いやいや、殺せるかどうかはともかくとして、どこにいるかも分からないし」
「言うだけならだたでーす」
「太陽ってさ、夜に死んで、朝に生き返るんだよね」
「ほー、なんかそんなこと言ってる神話あったねー」
「ってことはさ、私達も……」
「太陽のぱっわーで生まれ変われるといいねー」
「今度は人外は勘弁して欲しいな」
「生まれつきの人外ならありだと思いまーす」
「麗夏が一緒なら……それでもいっかー」
「やっぱそれだよねー、私も夏海が一緒じゃないと寂しいしー」

 白く空間に黒いひび割れが生まれた。どうやらここはもうすぐ崩壊するらしい。いつだって時間は有限すぎて憎らしい。最後なんだし、出血大サービスで1時間くらい時間が欲しかったよ。

 さあ、お別れをしよう。

「麗夏! 貴女に合えてよかった! すっごく愛してる!!」
「同じくだよー夏海! 夏海と一緒に過ごした日々はとっても楽しかった!!」
「私だって! 後悔なんてなにもないから!!」
「だよねっ、そうだよねー!」

 最後にお互い抱き合う。これが本当に最期のスキンシップ。

「またねー夏海」
「うん。また、どこかであいましょう麗夏」

 お別れじゃない。これは、再開の約束。

「また、夏海のこと好きになってもいいよね」
「今度は……麗夏のこと、麗夏が眠れなくなるほど愛してあげるから」
「わーお、ヤンデレだー!」

 そして、私達は完全に灰になって消えた。荷物と身につけていた衣服だけを残して。

 後々、行方不明になっていた女子高生のものと思われる荷物と、下着を含めた衣服が消波ブロックの上で発見されたりするけど私達の今後には無関係だ。

 さよならは言わない。

 私達はきっと再会できるって信じてるから。


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