ピケランサーガ


「ねたかもーん」

 「かもーん」「もーん」「ーん」。誰もいない、ただの山彦のようだ。雪の丘の仕事おかしいだろ! なんだよ雪を降らせる仕事って! ねーよ、そんな仕事!

「バカヤロー」

 今日も俺は辺境の地で理不尽を取り敢えずは叫ぶ。

 話をしよう。あれは今から36万……いや1万4000分前だったか……。まあいいや。俺にとってはつい昨日の出来事だけど、君達にとっては多分、明日の出来事だ。

 俺の名はピケラン。しがないトレジャーハンター(冒険家志望)だ。

 いや、だった……というべきか。

 一攫千金を夢見て家を飛び出したあの日の俺は最高に輝いていたさ。だがそれは現実を知らなかったからに他ならない。各種道具を含めて初期投資が必要で、しかも当たりの出ない日々。それは俺の精神をフルボッコにするには十分すぎた。

 この島のドリル文化のせいで掘れるものはガクラタかドリルで穴だらけになったかつてはお宝だったものだけだ。なんだってー!? こうして俺のトレジャーハンター生活は終わりを告げた。まだだ、まだ終わらんよ!

 今の俺は孤高の傭兵ピケランなのさ。狐だって戦えるんだぜ。暗器投げが得意なことに気付いた俺はそのスキルの腕をバンバン伸ばしてだな。まったく殴れない戦闘スタイルの確立に成功したのさ。

 見てくれよこ暗器広範囲投げ。一気に15個も暗器なくなるんだぜ?

 その分高威力で周囲の敵を一気に攻撃できるメリットがある。が、ここはゲームじゃない。現実だってことを忘れてたんだ……。

「その技、使うの禁止」

 問答無用で味方パーティにもヒット、ヒット、ヒット。首を立てに振らなかったら、今頃牛の大剣が俺の首をすっ飛ばしてたかもしんない。どうしてこうなった!?

 それ以降ソロでモンスター討伐のクエストを続ける日々だ。ギルドの連中、安い賃金でこき使いやがって……!!

 何もかも嫌になって、島を飛び出して家に――俺の住んでいたアパートの301号室に帰ったら家賃滞納で俺の部屋なくなってるじゃねーかあああああああ! まてまて、部屋はともかく物はどうしたんだ!? 法律とか的に勝手に捨てたりするのはアウトじゃね?

 大家に俺のサイン入り契約書見せられて絶望した! 契約書をよく読まなかった過去の俺に絶望した! 家賃代わりに全部消えたんですね、把握。

 島に戻って遺跡でテント暮らしになった。遺跡はいいところなんだぜ。理由はよくわからんけど水が噴出してくるし。飲み水にも風呂にも困らんよ! 遺跡は異世界に続く塔があるせいか、よく知らない奴に哀れんだ目で見られるんだが、そんなの関係ねえっ!

 とある牛君を見かけた。ギルドでも有名な牛でよく女子にきゃーきゃー言われている自称イケメン。ちょっと前に密林で遭遇したライオンチックなモンスターから強力なツメ素材を剥ぎ取って武器にしちゃったりしたやつで。まあ、何が言いたいのかと言うと、

「リア充爆発しろっ」

 この一言で十分だ。

 まあ、でもあの牛君は星占いしてる娘さんにぞっこんで、かなりの大金を貢いでるみたいだし、そのうち本当に爆発するんじゃね?

 俺だって幼馴染のバカ猫とか、同族の姉さんとか、うさぎ娘とか、羊っ娘とかいろいろな出会いはあったよ? あったんだけどどれもこれもフレンド止まりっておかしくね? 恋愛とかどこいったし?

 そういえば、知り合いの龍からは結婚しましたのハガキを貰ったっけ? 羊の嫁だった。その上最近新築の家を建てたらしいんだぜ。リア充爆発しろっ!

「よし、そろそろいいか」

 なぜか俺に与えられるニンジン。それをなぜか調理してる俺。仕方ないだろ、食べる物も金もないんだから。焼きニンジン、ゆでニンジン、ニンジンピューレ、ニンジンサラダ、ニンジンジュース。これだけあれば3日は働ける。

 てなわけでだリア充目指してちょっとくらい働くか。このまま遺跡キャンプはいくらなんでもダメだろ。中央の都市にいけるように頑張ろうぜ。

 あの都市なんでかど真ん中にドンの像があって邪魔なんだよな。しかもそのことを口にすると、誰も彼もが青い顔をするんだぜ。多分、そういうことばかり言ってるとどこからともなく黒い服を着たお兄さんがやってきてだな、まあ、……うん、怖いからこの話はやめよう。

 そういえばこんな話を聞いたことがある。なんでもあのドンの像の下には秘密研究所があるとかなんとか。俺がトレジャーハンターだった頃に探し回ったが、鍵穴一つみあたらねーじゃねーか! ガセかよちっきしょー!

「ピケさんを描きました」

「ばっかやろおおおおおお! 何してくれてんの!」

 通りすがりの獅子が俺に見せた絵には、なんでか俺が二人描いてあるんだぜ。どゆこと!? しかも一人が「やらないか」とか言ってるんだ……。おかしいだろこれ、誰かなんか言ってやれよ。

「いいぞ、もっとやれ!」

「ワロエナイ……」

 獅子を暗器投げで追っ払った俺は間違ってないはずだ。今日は不貞寝するか。そうしよう。なんだかねむいお。

「おはようございました」

 夢の中で爆竹投げつけられて目が覚めたわー! 仕方ない仕事するか。

 こいつを見てくれ。ただの携帯電話じゃないんだぜ? 島中のあらゆるところに一瞬でワープできるSFアイテムなんだぜこれ。凄いだろ。ギルドオフィスに顔でも出してくるか。

「なん、だと……?」

 携帯が反応しない、だと……! ぎゃあああああああ!

「電池がああああああ! 充電器なんてもってねーよ!!」

 ピケランの戦いはこれからだ!


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