みっちゃんワールド #34 悪魔の話


 遠い親戚のお姉さんから電話がかかってきました。

『魔法少女はお元気かしら?』
「ゆずちーなら元気いっぱいです! 今年も今年で告白、失恋のループを元気に繰り返してます!!」
『それは重畳。この前のお礼にワイロがいくら必要なのか聞いておいて頂戴』
「ワイロ!!」
『おっと、間違ったわ。謝礼だったわね、ええ。つまりは山吹色のお菓子ということよ』
「ポテチ?」
『似たようなものね。ところで海沼海々。貴女は悪魔という存在を信じるかしら?』

 唐突になんでしょうか? 宗教の勧誘なら親戚だろうと何であろうとお断りです。

「悪魔? あたしは神様は信じるけどそれ以外はなんとも言えません!」
『なんとも都合のいい頭をしてるわね。さすがだわ。柊鰯くらいの使い道はありそうね。まあ、この際悪魔でも天使でもお化けでもなんでもいいわ。そういったおかしな連中に知り合いはいないの?』
「いないよっ!!」
『チッ。魔法少女の知り合いがいるのならその他とも知り合っておきなさいよ、役に立たないわね』
「しず姉ほどじゃありません! あたしは魔法少女を紹介しました!」
『分かったわ。悪魔の知り合いを紹介してあげる。それでチャラね』
「待ってくださいしず姉。悪魔はちょっと困るといいますか、食費に困るといいますか、悪い子すぎてダメといいますか!」
『まあとにかくよ。悪魔は人間ではないから殺してしまっても法律的には問題ないわよね』
「あたしが法律を知っていると思ってるのならしず姉はあたしを評価しすぎです」
『どうやら海子さんにこんな話をした私が愚かだったようね。ごめんなさい』
「傷ついた! あたし今凄く傷付きました!!」
『1000円あげるからその傷を塞ぎなさい』
「はいっ! 傷口塞がりました!!」

 しず姉さんはこういう約束は無駄に守るのでこれで1000円はあたしのものです! ふっふっふ、電話でなんだかよく分からない話をするだけで1000円が貰えるなんて凄くお得なお仕事です!!

『天使の翼をもいでぶっ殺した場合、宗教団体が煩そうだけど悪魔なら殺ってもOKだと私は思うの』
「なんか怖いこと言ってます。そのうち悪魔と間違えて人殺したりしませんよね!? あたしは親戚が犯罪者というのは嫌です! テレビで変な風に報道されて、家にヒトゴロシーとか赤ペンで落書きされて石を投げられてしまいます!」
『そいつらは人の皮を被った悪魔だから皆殺しにしていいわ。私が許可します』
「あたしが警察に捕まったらどうするんですか!!」
『証言してあげるわ。あの子はアホなのでいつかはやるんじゃないかと思ってましたって』
「しず姉があたしを裏切った!! しず姉こそ悪魔です!!」
『悪魔というのはね、人の心に潜む闇よ』
「天使は?」
『今のところ見たことないわね。宗教家が生み出した虚像の可能性が大いにあるわ。大衆は都合のいい話には喰い付きがいいからさぞかし天使様のお話は重宝したでしょう』

 宗教って怖いですね……。

『とにかくよ、人外に襲われたのなら遠慮なく始末しなさい』
「そんな未来は絶対に来ないと思います!」
『未来は酷く曖昧で壊れやすいものよ。どこぞの魔法少女が好き勝手に魔法を使うだけであっさりと未来の出来事は変わってしまう』
「大丈夫です! あたしにはどうせ分かりません! それにゆずちーが未来を変えたのならそれは正しいことに違いありません!」
『個人的には紫光院譲葉はそこまで評価できる対象とは言えない』
「しず姉、あたし達はまだ中学生だよ! 高校生になって大学生になって大人になればどんどんパワーアップしていくんです!」
『中退して、フリーターになって、ニートになる。そういう堕落街道まっしぐらな人間もいるというのに。未来を楽観しすぎるものではありません』
「でも希望はあると思います! あたしの夢はパティシエールになること!」
『専属のお菓子職人として家においてあげるわ。月給は1万円でいいわね』
「安いよ、しず姉!!」
『安月給で他人をこき使うのが将来の私です』
「悪魔です!! 悪魔がいます!!」
『天使の美貌を持つ私を悪魔呼ばわりするなんて万死に値します。毎日1通ずつ死ね死ねメールを送ったら自殺しないかしら……』
「生憎とあたしにそういう攻撃はききません! くーちゃんにやり方聞いてメールを全部ブロックします!」
『フリーメールというものを知らないようね。ブロックしたところで違うアドレスから何度でも届くわ。そう、不死鳥のように蘇って、悪魔の囁きを送り続けて、心を汚染するの。いずれは世界に居場所がなくなったと心が勘違いして勝手にリアルからログアウトしてくれることでしょう』
「しず姉は一体何を目指しているんですかっ!」
『世界を我が手に』

 しず姉に世界征服されてしまったら弱者はみんな干物になってしまいます! ゆずちー! 出番です!! しず姉という人の形をした悪魔をやっつけて改心させてください!

『私を倒したところで無駄よ。第二第三の私が現れ貴女を混沌へと陥れるでしょう』
「ところで何の話でしたっけ? スイーツが美味しいという話でしたっけ?」
『合法的に人を殺す方法の話だったと思うわ』
「そんな怖い話はしてなかったと思います!!」
『安楽死は合法の国があるそうね。どことは言わないけど。つまりやりようによっては医者ならば対象を合法的に消すことも可能と言うことね。医療ミスを装うのとは違って罪に問われる心配もないわ』
「悪魔の話はどこに消えたんですか!?」
『悪魔でも妖精でもこの際なんでもいいわ。人外に攻撃されたら反撃しても許されるのか否かという話』
「あたしは人に攻撃されても反撃していいと思います」
『そういえば正当防衛というものがあったわね。私としたことが迂闊だったわ。まあ、証拠は隠滅したし万が一があっても正当防衛を主張すればなんとでもなるでしょう』
「しず姉すでに何かやらかしてる空気を感じますけど何したんですか!」
『コンクリートブロックが血……じゃなくてケチャップで染まっただけのこと。大した問題ではないわ』
「大問題だよっ!!」
『今夜はオムライスが食べたいわね。パティシエールになる途中で作れるようになりなさい。これは命令よ』
「しず姉! 自主するのなら早い方がいいと思います!」
『コンクリートブロックでゴキブリを潰した程度で大げさではないかしら? 流石の動物愛護団体も文句は言わないでしょう』

 えっ!! そういう話だったんですか!? あたし凄く勘違いしてました! それもこれもしず姉がはっきりとゴキブリという名前を出さなかったせいです!

『新しい私の世界構築のためその命を捧げなさい。そうすれば5万円をあげましょう』
「とても悩んでしまう金額ですっ!?」
『まずは、そう。社会のゴキブリである喫煙者共に正義の鉄槌を下しなさい。その後は運転しながらスマホを弄っている運転手に、美味しくないものを美味しいと報道するテレビ局、それと楽しみにしていてたゲームの続編の製作中止を発表したやつらよ』
「やっぱりしず姉人を殺してませんかっ!?」
『いい返事を期待しています』

 そして電話は切れました。……一体何の用だったのでしょうか!?


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