みっちゃんワールド #33 先送りの話


「やらないといけないことを後回しにして、後で嫌々やったことってないか?」

 唐突に何ですかくーちゃん。給食に大嫌いな食べ物も入っていたのですかっ!? 言うだけ言って牛乳を一気飲みしています。どうやら給食の関連は薄そうでした。

「夏休みの宿題とかだよね! 残りの3日でお姉ちゃんと知り合いを巻き込んで宿題を全部終わらせる、それが夏の長期休暇の醍醐味です!」
「そんな醍醐味捨ててしまえ! 君のせいで我々がどれだけ夏休みを無駄にしたと思ってるんだ!」
「3日だよっ! それ以上は無駄になってませんからねっ!!」
「今度からバイト代を要求しよう」

 くっ……。この前お金ないアピールをしたはずなのにあたしからお金を毟り取るだなんて!! くーちゃんには友情も憐憫もないんですか!!

「当然のように同情もないぞ。宿題は自力でやってこそだろ。ゆずちーだってそう思うはずだ!」
「ふぇっ!? あの、その……はい」

 唐突に会話を降られたゆずちーは給食を食べるので忙しいようでまともな返答が出来てません。つまりはくーちゃんにだけ会心の一撃をえぐい角度で入れればあたしの大勝利です!!

「でもねくーちゃん! 夏休みを満喫するためには仕方ないんです!」
「これはもう夏休みも先送りだな」
「それじゃ秋休みだよっ! どうして秋休みだけ存在しないの!?」
「二学期制の場合は存在していますけど、この中学校は三学期制ですので……」

 なんでもいいから秋にも長期休みが欲しいです! スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋! それらを満喫するための長期休暇の導入を急げニッポン!!

「お休みは休んで遊んで楽しんで過ごすべきだとあたしは思うんです!」
「そういう主張はやるべきことを終わらせた奴だけに許されるんだと思う」
「くーちゃんだって宿題嫌いでしょう?」
「当然だ! 宿題爆発しろ!! だが待て、それとこれとは話が違う。問題は宿題ではなくてみっちゃんだからな。つまり……みっちゃん爆発しろ!!」
「えええええええっ!?」

 あたしを爆破したって1円の得にもなりません! 友達が1人この世から消え去るだけなのでそういうことは言うべきではありません! 「爆発しろっ!」発言の直後に本当に爆発したらくーちゃんはどう思いますか! 喜ぶ? 悲しむ? 混乱する? あ、そうではなくて、

「くーちゃんだって夏休みの宿題、お兄ちゃんの手を借りてるんでしょう!?」
「まあ、なんだ……確かにそういうこともないわけではないかもしれない」

 くーちゃんが言葉を濁して曖昧なこと言ってます!!

「だがしかしだ。私はみっちゃんほど横着はしてないぞ」
「くーちゃんには五十歩百歩という言葉を箱詰めにして送りつけてあげる!」
「受け取り拒否だ!!」

 ただし送り主の住所は書いてありません!! 果たしてその箱は今後どういう扱いを受けるのでしょうか!! そういえば、特別送達って受け取りを拒否されても問答無用で差し置かれるって知ってましたか!!

「それは裁判関係であることが大部分なので受け取っていようといまいと法律上受け取ってる扱いになるだけですよみっちゃん」
「ところでゆずちーは? 夏休みの宿題どうする派? ポンちゃんみたいに川に流しちゃう派ですか?」
「いくらポンでもそこまでしないだろ」
「私は毎日少しずつやっています。そうすることで夏休みの間に一学期の授業を忘れてしまうことを防げるんです」

 な、なんと……! そんなことまで考えて勉強してるなんてプロフェッショナルすぎます! それってあれなんでしょう? 毎日運動を継続しないと痩せないのと一緒!

「……怒ってもいいですか? みっちゃん」
「一般論がちょっと口から飛び出しただけでゆずちーのことを言っているわけでは……!」
「ダイエットを先送りにすると絶対に痩せないもんなぁ」
「くーちゃん!! ゆずちーに爆弾を投げ込まないでください!! あたしが大変な目にあってしまいます!!」
「なんにせよさすがゆずちー、みっちゃんとは大違いだ。私も見習うとしよう」

 それって宿題の話ですよねっ!? まさかダイエット的な方じゃないですよねっ!? ここは軌道修正を図るとともに保身に走るとしましょう。

「あたしは思うんです。どうせ学校の勉強なんて大人になったら役に立ちません」
「役に立たないのではなくて、そういうこと言っている人が『勉強』を使う職業に就けないだけというのが正解かもしれません」
「遠回しにみっちゃんはバカだと言われているわけだ」
「酷いよゆずちー! あたしだって将来はバリバリの弁護士だよ!」
「あたしを弁護するのだけはやめてくれよ。敗訴確定の裁判に出廷ってどんな精神的拷問だよ……!」

 そもそもあたし達はなぜ学校にこうも通い続けているのでしょうか? きっとあたし達に勉強させることが目的じゃなくて、子供を学校に拘束することで大人に何かしらの益があるんだと思います。そう、例えば……拘束することでフリーダムな子供の発生を抑制しているんです。これはつまり、将来傾国のテロリストを生み出さないための布石!

「みっちゃん、海深さんは宿題毎年どうしているんですか?」
「ん、お姉ちゃんは……」

 夏休みの宿題どっさり出されたお姉ちゃん。その時の対応は確か……。

「お姉ちゃんなら夏休みの宿題を貰った瞬間に学校で取り掛かって、夏休みが始まった頃には自由研究とポスター描くやつだけしか残ってなかったと思います」
「海深さんぱねえ……! なんで姉妹なのに対極になってしまったんだ! 私は嘆かわしいぞ!!」
「お姉ちゃんはそういうの先送りにするとちゃんと終わらせられるのか分からなくなってストレスたまると言ってました」
「みっちゃんはそういうのでストレスを感じたりしないんですか?」
「あたしには最高の仲間がいるから大丈夫です!」
「最高の、仲間……!」
「待て待て、ゆずちー! そこで感動したら奴の思うツボだ! 言葉で我々を操ろうとしている大魔王みっちゃんだぞ!」
「えーっと……自力で勉強しないと体中が痛くなる『おまじない』とかどうでしょうか? 若干強制ではありますけど、毎日勉強するクセがつくと思いますが」

 お、おまじない!? 真顔で何を言っているんですか!! ゆずちーのおまじないはヤバイですっ!! この前の体育倉庫を忘れたとは言わせません!! それに今回はおまじないと言いつつ中身は拷問でした!!

「そのおまじないはまた今度、テスト期間中にくーちゃんにでも使ってあげてください」
「さらっと押し付けるな! 体中から血が出て死んだらどうするつもりだ!」
「お葬式には出てあげますから安心してください!」
「あの、この手のものは幻痛ですから大丈夫です。血が出たりはしません」
「殺さずいたぶるとか趣味悪いなっ! 誰だよそんなおまじない作ったバカ野郎は!!」

 まさかあのネットで話題になっていたというおまじないの本に載ってるんですか! だとしたらあれはもう禁書です! 焚書です!! そういえばおまじないは漢字では「お呪い」でしたね……。

「さあ、みっちゃん。覚悟はいいですか? 今年の宿題は毎日少しずつすすめましょう」

 ゆずちーがいい笑顔で迫ってくる!? 本気ですか!? 本当にそんなノロイのオマジナイがあるんですかっ!? ギャーーース!!

「一体いくら欲しいんですか!? 2000円ですか!? 6000円ですか!? それともこの冷凍みかんですかっ!?」
「中途半端な金額だな……」
「ふっふっふ、実は貯金しようと思ってまた今度、また今度と思っているうちに存在を忘れていたお年玉が見つかりました!」
「貯金まで先送りにするとは……。これは他にも何かあろうだろう。後でやる、とか言って忘れてること」

 まさか我が家の引き出しの中から埋蔵金が見つかるとは思ってもみませんでした! これでお菓子もコミックもゲームも買えます!

「これからゆずちーに全部取られるわけだが」
「ね、年末になりませんかね?」
「年末はダメだが新年ならOKだ」
「あたしのお年玉を根こそぎ持っていくつもりだなんて酷いよゆずちー!」
「いえ、その、お金は別にいりません……」

 そんなっ! ゆずちーはお小遣い0円生活というシビアな世界で生きているはずなのに! お金を要求してくるくーちゃんとは大違いです! 聖職者です! 巫女さんです!!

「なんか前にそういう家計だって言ってたような気もするな」
「魔法少女で巫女だなんてゆずちーどれだけ属性手にすれば気がすむんですかっ!!」
「違いますから! 私はどっちでもありませんから!! 前者は……昔のことがあるのであれですけど、少なくとも私が巫女だったことなんてありませんから!!」

 でも紫光院は元々巫女を輩出する家計だってゆずちーママが。つまりは未来のゆずちーは巫女さんなんだよっ!

「異議あり!」

 は、箸を突き出すなんてゆずちーらしかぬ行動を!! そんなに嫌ですか!?

「私のお母さんは病院務めです! 紫光院が巫女であった時代は終焉を迎えました!」
「いや、違うぞゆずちー。それはただただ巫女になることを先送りしているだけだ!!」
「くーちゃんまで何言い出してるんですか! 絶対に巫女のコスプレなんてしませんからねっ!!」

 わ、わーお。……牛乳を握りつぶしそうな勢いです。

「いや、でも、高校生になったら年始のアルバイトで巫女……」
「コンビニでアルバイトでもしますっ!」
「むぅ……」

 似合うと思うんですけどね、巫女さん。それに比べてゆずちーがコンビニ店員って似合わないにも程があります。せめてウェイトレスさんになってください! うまくいけば夏辺りにナンパされて新しい恋が始まったりするかもしれません。

「そもそもです、そういうことは神社の娘さんに言ってください」
「紫光院神社!」
「ありません!」
「仕方ない。逆に考えるんだみっちゃん。船岸神社の娘さんの方を魔法少女にするんだ」
「どうしてそうなっているんですか。うう、もう……」

 とはいえ、あたしには魔法少女育成計画は無理です! まずは魔法を勉強しないことには教えることはできません! というわけでこの案もまた先送りです! むむむむむ……どんどんあたしの未来が埋まっていく気がします。これはやっぱりどこかで妥協して「最高の仲間」に投げるべき。現実を一人で頑張る必要はないと改めて思いました!

「この星に審判を下すのはもうちょっとだけ先にしてあげましょう!」
「昨日の映画観たんだな? そうなんだな?」


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