みっちゃんワールド #32 帰ってきたみかんの話


 話をしましょう。あれは今から、3〜4年、いえ、1〜2年? とにかく何年か前のことです。まあいいです。あたしにとってはつい昨日の出来事みたいなものだけど、だれかにとっては明日の出来事かもしれません。
 彼女には72通りくらいの呼び名があるらしいです。なんて呼ぶべきでしょうか?
 確か最初に会ったときは、ポン……そう、彼女は最初からあたしの言うことなんて聞きませんでした。あたしの言う通りにしておけばよかったのに。まあ、悪い人ではないんだけどね!

「そんなみかんで大丈夫ですかっ!」
「大丈夫だ! 問題ない!」
「そんなみかんで大丈夫ですかっ!」
「一番いいのを頼む!」

 そしてあたしは目覚めました。

「予鈴がなった途端に起きるとか、みっちゃんもついに中学校の軍門に下ったか」

 何を言っているのかな、くーちゃんは。このあたしが何かの軍門に下るなんてありえません! 日本国民としての義務を全うしているだけのことです!

「実はポンちゃんをネタにした面白い夢を見ていたような気がします」
「この短時間で夢を見ただと……。私にもその夢を分けてくれっ! みっちゃんだけずるいぞ!」
「それなら授業中に寝ればいいと思います! きっといい夢見れます!」
「よーし、先生に何か言われたら全力でみっちゃんのせいにするからな!」
「明日、第二次冷凍みかん戦争が勃発するかもしれません」

 明日の給食には冷凍みかんがついてきますから! ふっふっふ……明日の戦争が楽しみですね。

「いや、まて。また職員室行きは勘弁だ。行くのならみっちゃんだけにしてくれ。みっちゃんが突然みかんを投げて窓ガラスを粉砕するという流れで頼む」

 それは職員室行きだけじゃすまない気がするんですよね! 絶対に親が呼び出されて一緒に校長室でお説教という流れですよねっ!? あたしはあの部屋にだけは入りたくありません!

「待ってください。ここはあたしとくーちゃんの間をとってゆずちーが校長室に行くということで手を打ちませんか?」
「申し訳ないのですがみっちゃん、その理屈は色々とおかしいと思います。そもそもどうして校長室なんでしょうか? 話の流れ的には職員室だと思いますけど」
「またみっちゃんが脳内で何かやらかしてワンランク上の校長室行きになったんだろ。窓をぶち抜いたみかんが人に当たって大怪我とかしたんじゃないのか?」

 後ろにゆずちーが!?

「謀りましたね、くーちゃん!! いろんな意味で!!」
「知らんよ! とにかく戦争だかテロだか知らないがそこに冷凍みかん兵器を持ち出すのはダメだ! また教師の雷が落ちることになる」
「みかんは剣よりも強し! その鉄剣を氷の力でへし折る!」
「凍っていようと所詮は果物! ぶった切ってやる!!」
「私は冷凍になっているみかんよりも缶詰の方が、……あ、いえ、なんでもありません。話を続けてくださいくーちゃん」

 後ろから缶詰なんて話が出てきました。開けずに缶ごと投げつけたら大ダメージです! 仮にも金属ですから骨折くらいはするかもしれません。凍らせる必要すらない驚異的なウェポンです!!

「投げるなみっちゃん。頭に当たったら死ぬかもしれないぞ!」
「とにかく缶詰は美味しいということでいいですか?」
「どういう流れでそうなったのかいまいち分からんが、私に異論はないぞ。みかんのシロップ漬けは美味しい」
「ねえ、ゆずちー」

 首を回しながらゆずちーに今思った疑問を投げかけました。

「缶詰のみかんはどうしてあんなに綺麗なの? みかんにいっぱいくっついてる白いのはどこにいったの?」
「白いのどころか綺麗にみかんの皮むけてるよな。まあ、機械処理なんだろう」

 うんうんとくーちゃんは首を縦に振って自己完結しています。していますけど、機械処理を魔法処理に置き換えても大丈夫な感じなのはまずくないでしょうか!? どちらでも理解不能という意味で! ブラックボックス化している「機械」部分の説明を要求します!

「熱湯につけると皮はむきやすくなるんです。一度熱湯につけてから、皮をむくと缶詰のみかんのように綺麗に中身だけを取り出すことができるんです」

 おおっ!! それが「機械」のしている仕事! あ、そういえば、

「あたし知ってます! トマトをお湯につけると簡単に皮がむけるんです! それと同じですね!」
「なんだと……」

 ふっふっふ。どうやらくーちゃんは知らなかったようですね。あたしが知っててくーちゃんが知らない知識があるってとっても素晴らしいと思います! さあ、くーちゃん、もっとあたしを褒めて、称えて、崇めるといいです!

「ちっ……これからは、敬意を込めてトマトマスターみっちゃんと呼んでやろう」
「新手の嫌がらせですか!!」
「二人とも、トマトのおでんがあるのはご存知ですか?」

 おでん!? あの冬にピッタリの食べ物で、どこのコンビニでも売っているあのおでん!? そんなものを知っているゆずちーこそトマトマスターの称号が相応しいと思いました。

「でもトマトですよね!? 茹でたりしたら皮がむけてつるつるに!?」
「形崩れそうなおでんだな。大丈夫なのかそれ」

 想像してみてください。茹で上がっているトマトを。トマトベースのスープみたいになっていないか心配です!

「意外と形保ってますよ。下手に動かさなければ大丈夫みたいです」
「ゆずちー! みかんのおでんは……?」
「おでんは聞いたことありませんけど、みかん鍋というご当地グルメなら実在しています」
「あるのか……!」

 みかん、鍋! くっ、みかんを皮ごとぐつぐつ煮込んでいるイメージしかありません! ですが!

「食べてみたいですそれ!」
「みっちゃんってそんなにみかん好きだったのか?」
「好きという程ではありません。ただ家にあれば食べます!」
「なるほど。私は家にあっても食べないな」
「私はたまにテレビを見ながら食べてる程度でしょうか」

 アニメですね、分かります。

「みかんを主人公にしたアニメ」
「みたことありませんね」
「みかんという名前のキャラならどこかでみたような気がしないでも……」
「ゆずちー! 今日の給食にみかんは出ませんか?」
「明日まで待て。カチコチのが出てくる」
「ひんやりくらいでお願いします」
「二人ともそろそろ授業始まりそうですよ」
「そういえばもう鐘鳴ってたな」

 そう。あたしの目を覚ましたのはその鐘の音です。ゆずちーはささっと自分の席に戻ってしまいましたが、くーちゃんは先生がくるまで粘っているつもりのようです。

「ついに始まりますよ、みかん史の授業が」
「みっちゃんはみかんの専門学校にでも通っているのか」
「歴史は嫌いです! でも、みかん史ならちょっと面白そうです!」
「なんにせよみっちゃんの寝顔に悪戯する予定が狂ってしまったな」
「何をしようとしているのかなくーちゃん」
「お昼休みに寝てくれれば分かるはずさ」
「絶対に起きてますからね!」

 みかんの話をしていたら、みかんを使った甘い物が食べたくなってきました。そうですね、手の込んだものをいきなり作ろうとすると失敗してしまうかもしれません。インターネット様のお力を借りてレシピを調べてからにしましょう。
 今日のところは手軽に缶詰のみかんにヨーグルトをかけて食べようと思いました。


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