みっちゃんワールド #31 体育倉庫の話


「ヒメ様これは一体どういうことなのですかっ!」
「えっ? 姫様って何? うちのこと? 普通に姫宮とか一花でいいよ海沼さん!!」

 放課後、体育倉庫の中に姫宮一花氏と一緒に閉じ込められました! なんでーっ、どうして!?

「さすがゆずちーだよ。あたし達をこんなことにした元凶!!」
「どういうこと? この状況に紫光院さんが絡んでるとしたら、鍵をかけた可能性くらいだけど」
「それがね……」

 これはお昼休みのこと。

「おまじない?」
「はい。この本のおまじないは結構きくとインターネットでは評判でして」
「ほー。それで、恋愛成就のおまじないは成功したのかゆずちー」
「うっ……、それはその……まだ効果をはっきりと実感できないといいますか」
「所詮おまじないだよっ、元気だしてよゆずちーっ!」
「そんなことはありません。これからお2人にはおまじないの恐怖を身をもって体感してもらいます!」
「なぜ恐怖なんだっ!? てかそのおまじないの本には呪殺するおまじないでも掲載されてるのか! 禁書だろっ! 封印指定だろっ!」

 本気のゆずちーを知るあたし達からすると「恐怖」と制限されると本当に怖いわけでして……。せめてそこは「驚愕」あたりに置き換わりませんかねっ!?

「くーちゃんには、誰かがいつまでも背後からついてきてるようなおまじないをプレゼント!」
「のろいだああああああああ!! みっちゃん……あした私がゴミ捨て場で発見されたらゆずちーを通報してくれよ……」
「みっちゃんには、そうですね……気になる人と密室に閉じ込められるおまじないを差し上げましょう」
「気になる人? あたしが今気になっている人は……」

 一人称が「うち」だったヒメ様だよっ! 接点がなくて気付かなかったけど、この前ウィッグを借りた時にようやく気付いたんですっ!

「というわけでゆずちーのせいでここに閉じ込められてるんだよっ!」
「どうして体育倉庫にきたの? そのまま帰ればよかったのに」
「それがね……くーちゃんが誰かに追跡されているような気がするって騒ぎ出して、あれこれあってこうなりました」
「はあ……? よくわかりません。うちは宮子さんに頼まれてボールを仕舞いに」

 まったく! どうして中に人がいるか確認しないで鍵をかけたりするんでしょうねっ!

「海沼さんケータイ持ってたりは?」
「その手がありました! ちょっとお待ちを」

 そしてくーちゃんに電話をかけて助けを――

『みっちゃんか! なんだかよく分からんのだが黒いもやみたいなやつが私をつけている気がする! このままじゃ私はヤバイ。この際最悪テレポートも止む得ないと思ってる。分かるな? 取り込み中だ。お互い死ぬなよ。じゃあな』
「………………」
「ど、どうしたの? ちょっと暗い部屋だけど顔色が一気に悪くなったのは分かるよ」

 ゆずちー。……怖いよゆずちー。あたし達にはおまじないがこんなにもクリティカルヒットなのにどうしてゆずちーの恋愛関係はヒットしないの? どうして三振ばっかりなの? この効き目を考えると絶対にホームランだと思うんですけどねっ!?

「大変ですヒメ様!! くーちゃんは助けにこれません!!」
「花梨さんじゃなくてもいいですから誰かに助けを」
「おおっ!! その手が!!」

 そして取り敢えずポンちゃんに助けを求めようとしたところ、あたしのケータイが強制終了。バッテリーが切れたみたいです!!

「もう終わりです……。この世の終わりです……! あたし達はこのまま骨になるまで体育倉庫の中に……!!」
「いやいやいや、うちは最悪明日まで待てば先生が開けてくれると思うよ!?」
「ゆずちーのおまじないはこんなに凄い効果があるのにどうしてゆずちーの恋愛は成就しないんですか!? 呪われているんですか!?」

 その時、バッテリーの切れたはずのケータイ電話から着メロが流れて、あたしは超ビビりました……。先にトイレ行っていなかったらヒメ様の前でとんでもない失態をしていたかもしれません。

「あの……バッテリー、切れたんですよね? なんで、今、ケータイが?」
「ゆ、ゆずちーです。あたしが恋愛に関して変な事言ったからゆずちーが激怒しているんです!! うわああああああああああんごめんなさいゆずちぃぃぃぃ!!」
「いやいやいや、いくらなんでもそんなこと紫光院さんにはできないから! 今のはバッテリーの接触が悪かったりなんやしたけでたまたまだから! オカルトなんて存在しないんです!!」

 それからしばらくは酷かったと思います。泣き喚くあたしに、パニック状態で謎の行動をし続けるヒメ様。思い出してみるとカオスでした。白い粉が舞い上がってて咳き込んだりとほんとにカオスでした。

「泣いていたらこのまま干物になってしまいます! どうにか脱出しましょう!」
「どうやって……? あの窓にある鉄格子外してみる?」
「ジャンプして辛うじて届く位置にあるのは嫌がらせだと思います! あそこから叫んだら誰か助けにきてくれないでしょうか?」
「運動会用かな? 跳び箱があるから上に乗ってみる?」
「それです!!」

 そして助けを呼んでみるも体育倉庫の立地が悪すぎて誰も気付いてくれません!! 古今東西のフィクションで体育倉庫に閉じ込められるシーンが存在しているのですから、現実でもその辺を考えて対策してくれてもいいと思います!
 学校側はいらないプライドは優先するくせにこういう本当に必要なことをまったくしてくれません! きっとうちの学校で起こっているイジメも完全無視しているに違いありません!

「よくよく考えてみるとあのおまじないの本って実は呪いの本だったんじゃないでしょうか。おまじないってこう、もっとハッピーなものだと思うんです」
「知ってますか海沼さん。おまじないって漢字で書くと『御呪い』なんですよ」

 ゆずちーは、「おまじない」じゃなくて「のろい」の本を使ったのかもしれません。このままではくーちゃんは謎の変死を遂げ、あたしと巻き込まれたヒメ様は明日の太陽の光とともに灰に……。

「いやいやいや、うちら吸血鬼じゃないから! それにその本市販の本だよねっ!? いくらなんでもそこまでの効果は……」

 魔法少女であるゆずちーなら魔力とか魔導とかMPとか言われるもののせいで眉唾な効果でも発揮してしまう恐れが……!!
 それからもしばらく叫んだり、扉を蹴ったり、ケータイを眺めてみたりしていましたが助けはきません。そろそろ一夜をここで過ごす覚悟を決めるべきなのかも。

「ヒメ様ー!!」
「えっ、何!?」

 がばーっとヒメ様に抱きついてその体温を感じ取る。あたし1人じゃないって実感がここにあります!

「急に寂しくなりまして……ついつい」
「うん……別にいいけど」
「……壁を壊して外に出ましょう!」
「そんな力ないよ……」
「ヒメ様なんだか熱っぽい?」
「そうかも」

 こんな状況だからでしょうか!? ヒメ様が体調を崩してしまったみたいです!! どうすれば……!! あたしにできることって何? なにか、あるの!?

 無我夢中で跳び箱に飛び乗り、鉄格子を両手で掴んで揺らす。ガチャガチャと音はするものの外れる気配は一切ありません。むううううううう……。

 鉄格子の向こう側は暗くなってきていました。さっきまではもうちょっと明るさがあったはずなのに。内側と外側がまるで別の世界みたいです。一体どれくらいの時間あたし達はここに閉じ込められているのでしょうか? 管理者の怠惰っぷりに怒りを覚えます!

「あたしはおまじないの犠牲になってもいいです! だから、……ヒメ様をたすけろおおおおおおおおおおおお!!」

 瞬間。何かがぶち壊れるような音がしました。あたしの叫びが何かに届いたのかもしれません!!

「あんた達こんなイカイじゃなくて体育倉庫で何してんの。バカなの? このまま篭城して死ぬの?」
「えっ?」

 体育倉庫の扉が、あのどうやっても開けることのできなかった扉が開いてます!! さっきの音は扉が開いた音でした!!

「閉じ込められてたんだよぉ……、助けてくれてありがとう……」
「ありがとう金髪の人!」
「ふんっ、これだから脆弱で頭の悪い人間は……。礼なんていらないわ。それよりもこの学校に金髪なんてあたし一人なんだし名前くらい覚えなさい。それができないのなら小学校で集団生活の仕方を再教育されてくれば?」

 金髪の人がいるのは知ってたけど、そう言えば名前を知りませんでした!

「あんたどうしたのよ。いや聞くまでもなかったわね。保健室まで背負ってあげるわ。あんたが超絶的な弱者であったことを感謝しなさい」

 と、ヒメ様を背負う金髪ちゃん。口調は少々アレですけど、意外と優しさに溢れています!! なんだかカッコイイ!!

「あーそうそう。しょうもないまじないとか手出してたらマジで死ぬわよ。別に忠告とかする気なんてないけど、死ぬなら学校以外で死んでくれない? 一応はあたしもここの生徒だから事件とか起ると面倒」
「一理あります!」
「海沼さん……そこは同意するところなの?」

 背負われているヒメ様からツッコミが入ってしまいました。

「あんたは大丈夫そうね」
「いや、もう、ゆずちーのおまじないで酷い目にあいました……」
「ゆず、ちー……? ああ、あいつ、紫光院譲葉ね。ははっ、なーるほどね。ぶち壊しにきてよかった」
「何をぶち壊しに?」
「なんでもないわ。こっちのことだから忘れなさい。ま、どうせ明日には記憶から自動消去されてるでしょうけど」

 口早にそう言うと金髪の人は保健室へとさっさと移動してしまいました。結局名前は聞けてません。そういえばあの金髪の人はどうしてこうなった原因がおまじないだって気付いたのでしょうか? もしかするとゆずちーと同じ本をもっているのかも知れません!

 体育倉庫から脱出して気付いたことが2つだけあります! 外に出てみたら曇ってはいるものの意外と明るかったです!! そしてもう1つ。体育倉庫の鍵はどこにいったのかと言うことです! それらしきものが見当たりません!! あの金髪の子が南京錠を持って言ってしまったのかも!!

 どうやって扉を開けたのかも気になりますが、今日は疲れたので早く家に帰ってお姉ちゃんの顔でも見てこようと思います。

 あ、ちなみにくーちゃんは翌日元気に登校してきました。

「黒いストーカー? そんなもの気のせいだったに決まってるだろ。所詮はおまじないだよ」

 あまりの恐怖に記憶を書き換えてしまったのかもしれません。恐ろしすぎて余計な追求はできませんでした……。
 今後ゆずちーに恋愛爆弾を投下するのはちゃんとタイミングを見計らってからにしようと思います。

 恐怖こそが最強の反省に繋がることをあたしは学んだのです。でもそんなの学びたくなかったです!!


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