みっちゃんワールド #31 体育倉庫の話
「ヒメ様これは一体どういうことなのですかっ!」 「えっ? 姫様って何? うちのこと? 普通に姫宮とか一花でいいよ海沼さん!!」 放課後、体育倉庫の中に姫宮一花氏と一緒に閉じ込められました! なんでーっ、どうして!? 「さすがゆずちーだよ。あたし達をこんなことにした元凶!!」 これはお昼休みのこと。 「おまじない?」 本気のゆずちーを知るあたし達からすると「恐怖」と制限されると本当に怖いわけでして……。せめてそこは「驚愕」あたりに置き換わりませんかねっ!? 「くーちゃんには、誰かがいつまでも背後からついてきてるようなおまじないをプレゼント!」 一人称が「うち」だったヒメ様だよっ! 接点がなくて気付かなかったけど、この前ウィッグを借りた時にようやく気付いたんですっ! 「というわけでゆずちーのせいでここに閉じ込められてるんだよっ!」 まったく! どうして中に人がいるか確認しないで鍵をかけたりするんでしょうねっ! 「海沼さんケータイ持ってたりは?」 そしてくーちゃんに電話をかけて助けを―― 『みっちゃんか! なんだかよく分からんのだが黒いもやみたいなやつが私をつけている気がする! このままじゃ私はヤバイ。この際最悪テレポートも止む得ないと思ってる。分かるな? 取り込み中だ。お互い死ぬなよ。じゃあな』 ゆずちー。……怖いよゆずちー。あたし達にはおまじないがこんなにもクリティカルヒットなのにどうしてゆずちーの恋愛関係はヒットしないの? どうして三振ばっかりなの? この効き目を考えると絶対にホームランだと思うんですけどねっ!? 「大変ですヒメ様!! くーちゃんは助けにこれません!!」 そして取り敢えずポンちゃんに助けを求めようとしたところ、あたしのケータイが強制終了。バッテリーが切れたみたいです!! 「もう終わりです……。この世の終わりです……! あたし達はこのまま骨になるまで体育倉庫の中に……!!」 その時、バッテリーの切れたはずのケータイ電話から着メロが流れて、あたしは超ビビりました……。先にトイレ行っていなかったらヒメ様の前でとんでもない失態をしていたかもしれません。 「あの……バッテリー、切れたんですよね? なんで、今、ケータイが?」 それからしばらくは酷かったと思います。泣き喚くあたしに、パニック状態で謎の行動をし続けるヒメ様。思い出してみるとカオスでした。白い粉が舞い上がってて咳き込んだりとほんとにカオスでした。 「泣いていたらこのまま干物になってしまいます! どうにか脱出しましょう!」 そして助けを呼んでみるも体育倉庫の立地が悪すぎて誰も気付いてくれません!! 古今東西のフィクションで体育倉庫に閉じ込められるシーンが存在しているのですから、現実でもその辺を考えて対策してくれてもいいと思います! 「よくよく考えてみるとあのおまじないの本って実は呪いの本だったんじゃないでしょうか。おまじないってこう、もっとハッピーなものだと思うんです」 ゆずちーは、「おまじない」じゃなくて「のろい」の本を使ったのかもしれません。このままではくーちゃんは謎の変死を遂げ、あたしと巻き込まれたヒメ様は明日の太陽の光とともに灰に……。 「いやいやいや、うちら吸血鬼じゃないから! それにその本市販の本だよねっ!? いくらなんでもそこまでの効果は……」 魔法少女であるゆずちーなら魔力とか魔導とかMPとか言われるもののせいで眉唾な効果でも発揮してしまう恐れが……!! 「ヒメ様ー!!」 がばーっとヒメ様に抱きついてその体温を感じ取る。あたし1人じゃないって実感がここにあります! 「急に寂しくなりまして……ついつい」 こんな状況だからでしょうか!? ヒメ様が体調を崩してしまったみたいです!! どうすれば……!! あたしにできることって何? なにか、あるの!? 無我夢中で跳び箱に飛び乗り、鉄格子を両手で掴んで揺らす。ガチャガチャと音はするものの外れる気配は一切ありません。むううううううう……。 鉄格子の向こう側は暗くなってきていました。さっきまではもうちょっと明るさがあったはずなのに。内側と外側がまるで別の世界みたいです。一体どれくらいの時間あたし達はここに閉じ込められているのでしょうか? 管理者の怠惰っぷりに怒りを覚えます! 「あたしはおまじないの犠牲になってもいいです! だから、……ヒメ様をたすけろおおおおおおおおおおおお!!」 瞬間。何かがぶち壊れるような音がしました。あたしの叫びが何かに届いたのかもしれません!! 「あんた達こんなイカイじゃなくて体育倉庫で何してんの。バカなの? このまま篭城して死ぬの?」 体育倉庫の扉が、あのどうやっても開けることのできなかった扉が開いてます!! さっきの音は扉が開いた音でした!! 「閉じ込められてたんだよぉ……、助けてくれてありがとう……」 金髪の人がいるのは知ってたけど、そう言えば名前を知りませんでした! 「あんたどうしたのよ。いや聞くまでもなかったわね。保健室まで背負ってあげるわ。あんたが超絶的な弱者であったことを感謝しなさい」 と、ヒメ様を背負う金髪ちゃん。口調は少々アレですけど、意外と優しさに溢れています!! なんだかカッコイイ!! 「あーそうそう。しょうもないまじないとか手出してたらマジで死ぬわよ。別に忠告とかする気なんてないけど、死ぬなら学校以外で死んでくれない? 一応はあたしもここの生徒だから事件とか起ると面倒」 背負われているヒメ様からツッコミが入ってしまいました。 「あんたは大丈夫そうね」 口早にそう言うと金髪の人は保健室へとさっさと移動してしまいました。結局名前は聞けてません。そういえばあの金髪の人はどうしてこうなった原因がおまじないだって気付いたのでしょうか? もしかするとゆずちーと同じ本をもっているのかも知れません! 体育倉庫から脱出して気付いたことが2つだけあります! 外に出てみたら曇ってはいるものの意外と明るかったです!! そしてもう1つ。体育倉庫の鍵はどこにいったのかと言うことです! それらしきものが見当たりません!! あの金髪の子が南京錠を持って言ってしまったのかも!! どうやって扉を開けたのかも気になりますが、今日は疲れたので早く家に帰ってお姉ちゃんの顔でも見てこようと思います。 あ、ちなみにくーちゃんは翌日元気に登校してきました。 「黒いストーカー? そんなもの気のせいだったに決まってるだろ。所詮はおまじないだよ」 あまりの恐怖に記憶を書き換えてしまったのかもしれません。恐ろしすぎて余計な追求はできませんでした……。 恐怖こそが最強の反省に繋がることをあたしは学んだのです。でもそんなの学びたくなかったです!! |
【TOP】