みっちゃんワールド #25 Dance with April Fools' Day phase3: 迷惑の話


 唐突にみっちゃんに宿った怪異がやばすぎます!!
 私の下着を物理的に消し去っただけならまだしも、宇宙人らしき何かを生み出したり、謎の呪術(?)を使用したり!!
  口にした言葉が真実になる力、言霊の亜種と思われるそれはあまりに危険すぎます。緊急対処案件ですが、私の手に余ります。すぐさま母に連絡してみっちゃんを衝撃的な方法で無力化。くーちゃんにはすべてドッキリだったということにしてもらいました。

「宇宙人はどうしたんですか?」
「あのペットボトルみたいな円盤なら目撃者が増える前に潰しておいた。どうみてもニセモノだったからな」
「そうですか……」

 ちなみに跳ね飛ばされたみっちゃんは無事です。お母さんが運転中に魔法を使って物理ダメージを無効化するなんていう荒業を行使しました。あの時は本気でみっちゃんを殺害・無力化なんて手段を行使したのかと思い血の気が引きました。
 みっちゃんは今、私の隣ですやすやと眠っています。今まで無意識とはいえ大暴れしていた存在とは思えません。

「ところでお母さん……くーちゃんは放置なんですか?」
「ああいうのは勢いで暴露して放置すれば勝手に答えを生み出して、そう思い込む。そういうものだ」
「はぁ……」

 なんだかごめんなさいくーちゃん。でも、これはドッキリであったということにしておかないとまずいんです……。だから、ごめんなさい……。
 私達を乗せた車は紫光院総合病院へ。ここでみっちゃんの精密検査を行うつもりです。

「やっ、ゆず」

 地下駐車場に停まった車から降りた途端、涼しそうな格好をした長身の男性に声をかけられました。

「あ、兄さん。お久しぶりです」
「映画見たついでにこの辺ぶらぶらしてたら呼ばれてね。友達が大変だったんだって」
「雑談は後にしろ光月。検査を手伝え」
「俺が医者じゃないってこと忘れないで欲しいです、はい」
「手伝わないのなら魔法使いなんてやめてしまえ」

 それからおよそ1時間。私はただただ結果が出るのを待つことになりました。辛いです……何もできないことがとても……。せめて私が兄さんと同レベルの魔法使いであれば、お母さんのお手伝いをすることだってできたはずなのに。私は、こういう時、何もできません……。

「人間というのはそうやって成長するんだよ譲葉。早くレベルアップして次はお前さんがなんとかできるようになりたまえ」
「はい、お母さん……」
「うわー……実の娘に手厳しい言葉を」
「甘やかすと碌なことにならんぞ。譲葉が光月のようになってしまっては困るからな」
「ちょっ、俺は出来損ないかよおおおおおぉぉぉぉ!!」

 お母さんは兄さんの大げさなリアクションを無視して話を続けました。

「調査の結果みっちゃんが手に入れた力もまた、くーちゃんと同じ。何者かによって貼り付けられたものであることが分かった」
「また、なんですか……」
「しかも今度は凄いぞ。人間には修得できない技術をみっちゃんに付与している。魔法や超能力ならまだしもエルフズステイクステージとは」
「えっ? それって、確か……エルフ種の固有ギフトでしたよね?」
「みっちゃんは実は隠れエルフだったのか」
「そんなわけありません。みっちゃんは人間です」

 耳が長い等の特徴があれば分かりやすいですが、そういうのはありませんし、精霊魔法を行使している様子もありません。

「この際その辺は無視だ。言葉に力を持たせるギフトなど破滅しか生み出さん。さっさとアンインストールすべきだ」
「能力から何者かに繋がる細い糸を辿る、とかしないんですかお母さん」
「世界干渉型レベル10のギフトなど危険すぎて触りたくもない。運命干渉系同様すぐにでも消えてもらいたいところだ」
「ヤバイ……俺そっち系の会話あんまりついていけない」

 生まれつき持っている力はその人の一部なので消し去るのは難しいのですが、後から得た力と言うのは「その人を構成する要素」に含まれていないため結構簡単に消し去れたりします。なので本当はくーちゃんのテレポート……正式には「ゼロアール」という空間干渉スキルも消去は可能だったんです。ですが、いざという時のための保険として残しておいたそうです。みっちゃんのそれは保険どころかちょっとの揺れで爆発する爆弾なので消去一択のようですが。

「譲葉」
「はい」
「くーちゃんに続いてみっちゃんだ。この意味は分かるな?」

 同じエリア、同じクラス、同じ知り合い。これを偶然と考えるには無理があります。要警戒案件です。

「2人とも私の友達です。つまりは本命は、狙いは……私、ということでしょうか?」
「可能性がゼロとは言えん。警戒だけは怠るな」
「はい」

 私がターゲット。
 魔法使いの家系に生まれた以上そういうこともある、とは心のどこかで考えてはいました。ですが、それはもっと大人になってからのことだと思ってましたし、それで他人に被害が及ぶとは思ってもみませんでした。

 私の存在があるせいで2人に迷惑がかかっているのであれば、私は……。

 ◇

 譲葉は先に帰した。この先は大人の話だ。

「最近は色々と言われていたけど、こう目に見える形で現れるとねえ……」
「人間には不可能な異種能力移植……関わっているのは超越種の類だろう。お前さんはどう思う?」
「七大驚異みたいのも出ててきてるし、いい加減真っ当に軍隊との連携とか考えた方が無難かもね。『鏡の』とか『真祖』とか自重しない連中はなんとかすべき。特に後者」

 それはいわゆる吸血鬼と呼ばれる怪異の類であり、すでに死人が出ている。しかし……、

「個体でありながら保有している力が強大すぎる。人間という種を超える者を排するのは至難だ」
「だろうけどそこで諦めないで存外なんとかしちゃうのが人間という種だと俺は思う」
「人間はしぶといが限度がある。未だに真っ当な宇宙進出ができていない時点で限界は見えたな」
「限界なんてのは古い考えのやつが勝手に設定してるだけ。若者はそういう壁を何度となくぶち壊すものさ」
「譲葉の魔法は未だに制御が甘いが、成人さえすれば魔法使いとしてかなり理想に近い形で完成するだろう」
「才能があるっていうのはいいことだけど、あんまり期待しすぎるとあんな子でもグレるぞ」

 譲葉よ、グレたとしてそれでどうする? お前さんが友達2人を見殺しにできるのならまだしもそれが不可能である以上お前さんは私の敷設したレールの上を歩き続けるしかない。
 今日、自らの手でみっちゃんを助けられなかったことからもそれは明白だ。譲葉、脱線してみせろ。早く私を、親を超えてみせろ!

「譲葉には期待している。しているが……みっちゃんあたりと百合に走ってくれることにもかなり期待しているのだがダメだろうか」
「ダメでしょそれはっ!」
「じゃあお前さんに期待するよ。リアルBLを頼む」
「お断りだっ!! くだらないこと言ってないで神様にでも祈れよ似非巫女!」
「いいか光月、神頼みはここぞという時にだけすべきなのだ。女神は都合のいい道具ではないということを理解しろ」
「カッコイイこと言ってないで面倒だから嫌だって言ってしまいなよ!」
「女神の言葉を巫女である私が代弁してやる。自分の世界のことくらい自分でなんとかしろ」

 ◇

 翌日、くーちゃんの家にて。

「昨日のくーちゃんはいろんな意味で面白かったね!」
「まったくだよ! みっちゃんが仕掛け人とかそんな馬鹿な! ありえないだろ!!」
「くーちゃんがそう思うことを想定して、あえてみっちゃんで仕掛けました」
「…てかゆずちー、君はあれだ。どっきりのために体張りすぎだろう」
「うっ……」

 私は被害者ですっ! と叫びたかったのですが、ぐっと我慢。
 みっちゃんは兄さんによって記憶操作されてしまったので、あのことを正しく認識しているのはもう私だけ。

「ゆずちーだって4月にはあれくらいはっちゃけるんだよっ!」
「まるで私だけ仲間はずれみたいだな、今度からそういうのは3人でやろう。なっ!? 海深さんあたりにドッキリ作戦で行こう。後日みっちゃんを生贄にすれば許してくれるさ」
「酷いよくーちゃん! あたしはお姉ちゃんの生贄になんてなりません。くーちゃんがあたしのかわりになるべきです!」
「あーそれでいいやー。私が代わりになるのなら、な」
「くっ……!」

 終わってしまえばこんなにも平和です。
 ですが、この先もたくさん起こるであろう怪奇現象を相手にして私は戦い続けることができるのでしょうか?
 もしも負けてしまったら……? その時、私の親友達はどうなるのでしょう? 考えたくもない可能性です。

「くーちゃん」
「どうしたんだゆずちー、昨日のアレはやりすぎたって今更思ってたりするのか? 過去はどうやっても変えられないんだぞ?」
「過去は無理でも……未来は、私達が自由に変えられますよね」
「当然だろ!」
「そうだよゆずちー! 明日何して遊ぶかを今決めても、明日になってやっぱりあれしようってなってもいいんだよっ!」
「スケジュール立てる側からしたら土壇場での変更は迷惑なんだぞ、分かってるかみっちゃん!」
「でも楽しかったら乗ってくるんでしょう? だったら、いいんじゃないかとあたしは思うんです!」

 2人の言葉は私の心の栄養となります。いつだって私の心を軽くしてくれるのはくーちゃん達です。未来への希望は捨てません。ええ、捨てられませんね。

「まったくもってみっちゃんというのは迷惑な存在である」
「どういう意味!? あたしがどんな迷惑をかけたのか言ってみるといいよ!!」
「山ほどあるわっ! 1時間で語りつくせると思わないことだ! さあ私の話を聞くといい!」
「くーちゃん」
「どうしたゆずちー? ゆずちーもみっちゃんが迷惑の塊、トラブルメイカーなのは分かってるはずだろ」

 確かにみっちゃんのせいで吐いたりとかしました……。ですが、

「そんなトラブルメイカーは嫌いですか?」
「愚問だな。トラブルを起こされるのは正直言って困るさ。でもそれと好き、嫌いは別だろ。性格とか人間性とか優しさとか、私にもよく分かんないけど私はこんなみっちゃんでも好きだぞ」
「まるであたしが悪者みたいになってる気がするんですけど! どういうことなの!?」
「悪者でも好かれてるなら嫌われ者のヒーローよりもいいだろ。私はそう思う」
「じゃあ、もしも私が迷惑かけてしまっても、友達でいてくれますか?」
「あれだよね、くーちゃん。ゆずちーは」
「自分で気付いてないだけで結構やらかしてるぞ」
「えっ!?」

 いつっ!? どこで!? 思い出してみてもそれらしい記憶は見当たりませんけど!?

「だから安心するといい。みっちゃんみたいのが増えるは非常に困るが、それで友達やめたりはしないさ」
「あたしが増えるのは人類にとってプラスなので大丈夫です! むしろ歓迎だよゆずちー!! それとまるでくーちゃんは何もトラブル起こしてないみたいに言うけど、ほらあの融合したやつとか結構やってるよねっ!」
「その件は忘れるんだ! 終わりがよければ真ん中の出来事なんてどうでもいいんだよ!」
「そう、ですね……」

 私はまだまだ未熟ですから終わりさえ完璧ならば、……他の犠牲は諦めます。ですが、終わりだけは絶対に完璧に、私の望むものを掴み取って見せます。

「これからもいっぱい迷惑かけると思いますけど、ずっと仲良くしてくれると嬉しいです」
「勿論だよゆずちー! きっとあたしも迷惑かけるけど笑って水に流してくれると嬉しいです!」
「みっちゃんの世迷言は忘れるとしてだ、友達ってのは互いに迷惑を掛け合うものだ。こっちこそよろしく頼むよゆずちー」

 どうかこの約束がずっとずっと続きますように。
 1人の魔法使いとして望む結果を勝ち取って見せます! 必ず!

――Dance with April Fools' Day/ダンスウィズエイプリルフールデー 了


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