みっちゃんワールド #24 Dance with April Fools' Day phase2: 実行の話


「くーちゃん、ちょっとトイレを借りますね」
「おう」
「いってらっしゃい」

 ゆずちーが1階に下りてみっちゃんと2人っきりになったのを確認して、私は素早く行動を開始する。

「おっと、ちょっと電話がかかってきたみたいだ。相手は、海深さんか」
「えっ!? お姉ちゃん!? どんな――」

 みっちゃんを残して私は部屋の外に出る。

「もしもし海深さんですか。ええ、大丈夫です。予定通りにみっちゃんは足止めしておきます」

 わざと大きな声を出して海深さんと会話してる「ふり」をした。

「勿論、予定時刻にみっちゃんを引き渡しますって。報酬はスイス銀行に振り込んでおく方向で」

 わずか10秒ほどの電話をして部屋に戻ったら、

「くーちゃん、何かヤバイ取引の電話してたよねっ!?」

 とみっちゃんが詰め寄ってきた。

「何を言っているんだ。ちょっとエルフについてあれこれ語っただけだぞ」
「10秒で!? そもそもエルフのエの字も出てこなかったと思うんだよ!?」
「まあまあ、落ち着けみっちゃん。私を信じろ、私がみっちゃんを誰かに売り渡すわけないだろう」
「嘘だっ!! くーちゃんはお金であたしを売り払おうとしてるんです!!」

 みっちゃんがなんだかヤバイ!! 早すぎるがネタをばらすか……。

「今の電話はエイプリルフールの嘘だ」
「な、なんだってええええええええ!? 酷いよくーちゃん!! お姉ちゃんからの電話を装うなんて!!」
「着信音鳴ってなかっただろう。そこは気付くべきだ!」
「あっ、くーちゃん!! 窓の外に宇宙人がいるよ!」
「ナンダッテー?」

 いくらなんでも適当すぎるだろみっちゃん。内心を隠し、棒読みでそう言いつつ、私は窓から外を眺め……絶句した。

「あ、ありえないだろ……」

 銀色の円盤が何かをアブダクションしていた。……いや、待て待て!? どういうことだ!? 宇宙人はみっちゃんによる適当な嘘だろ? あれっ!? 本当にUFOあるぞ!? どうなってるんだ!?!?
 こ、これは夢だ。そうさ、みっちゃんにあの一瞬で暗示をかけられたのさ。それでいい。

「みっちゃん、外にUFOで、飛んでるぞ……」
「あたしの言った嘘を改変して使うのはずるいよっ!」

 みっちゃんは気付いてない。まあいい、あれは本気でなんだか分からないけどまあいい。脳ミソが拒否ってるんだ、察してくれ。

「くーちゃん、みっちゃん!!」

 ばたんどたんと音がして1階から私達を呼ぶゆずちーの声。急行したところゆずちーがとんでもない格好でトイレから飛び出してきていた。

「UFOが空にいます!?」
「ゆずちー、何を見たのかは分かる。分かるんだが、とりあえずだ……。パンツはくべきだ」
「えっ…………きゃああああああああああああああ!!」

 その場で屈み込むゆずちー。でも状況は変わらないぞゆずちー!!

「くーちゃん。今まで秘密にしていたけどゆずちーは実はノーパン派なんだよ!」
「んなわけあるか……!!」
「……っ!?」
「知らなかったようだねくーちゃん」
「いや、この前ゆずちー転んでパンツ丸出しにしてただろう。もしもはいてなかったらもっと悲惨なことになってたはずだ」

 私とみっちゃんがやりあっている間にゆずちーが超速でトイレにリターンした。……追い討ちかけたようなものだしな。そりゃ天岩戸に閉じこもりたくもなるか。

「ゆずちーが可愛そうだから部屋に戻ろうか。そして何事もなかったかのように迎えるんだ」
「そうだね」

 そして状況は一変する。

「くーちゃんをお借りします!!」

 トイレから戻ってきたゆずちーに引っ張られて玄関前に連れていかれ、

「みっちゃんにノーパンだって言われた途端、本当にパンツが消滅しました」

 ……そんなことを急に言われて私はどうしたらいいんだよ。ていうかマジで何が起こってるんだ!?

「いや、正直、変だとは思ったんだよ」
「みっちゃんの言った嘘が真実になる能力……言霊の亜種でしょうか。とても厄介な力ですね」
「まさかみっちゃんも超能力に?」

 認めたくはないがそうだとしか言えないからなぁ……。

「目覚めたのか、誰かに与えられたのかは分かりませんけど放置できない危険な力です」
「もしもだ、みっちゃんが冗談でもくーちゃんは明日死ぬとか言ったら……」
「UFOの件もありますから効果範囲は絶大。本当に命を落としたり、地球が爆発したりするかも……」
「さっきみっちゃんが永遠の子ども宣言してたけどみっちゃんは大人になることを拒否ってるのか?」
「さ、さぁ……」
「さらにはゆずちーは後で虫に蹂躙される運命なんだが覚悟はいいか?」
「あっ………………」
「いや、涙目になられても私には何もできないぞ!」
「と、とにかく……お母さんに連絡してみます」

 私の超能力にも対処してくれたしな。ゆずちーママには期待したい。というかあの人が投げたらもう本当にどうすればいいんだ? みっちゃんという存在を、消す……? ない、よな。

 その後のことはダイジェストでまとめよう。

 電話して戻ってきたゆずちーにクモ襲来。背中に入って大パニックの末に服を全部脱ぎすてた。その後しばらくは私のベッドで布団を被ってすすり泣く声だけが響いた。

「ほー、呪術師のみっちゃんはとんでもなく酷いやつだな。ゆずちー超泣いてるぞ」
「あれは適当に言っただけだよっ! あたしは本当は超ノーマル人間で呪術師なんかじゃありません!」

 ゆずちーの犠牲はあったもののみっちゃんのクラスから「呪術師」を消去。

「明日の天気は雨じゃなくて、食べられる飴だねっ!」
「海深さんって飴好きだったよな。狂喜乱舞してみっちゃんに抱きついてくるぞ。よかったな」
「何を言っているのかなくーちゃん。明日は晴れに決まってるよ!」

 次々とくだらないことを言い出すみっちゃんをバッサバッサと斬り捨てる。いや、マジで滅多切りにしないといけなくなるとは思わなかったよ!! でも世界のため、私の未来のためだ!!

「まったくみっちゃんの嘘はレベルが低いな。いや、最早嘘ですらない。これが10年後も子どもであるみっちゃんの限界か……」
「酷いよくーちゃん! 10年もあればあたしは立派な大人です! ドレスだって着こなせるハイパーレディになっているはずです!」

 ハイパーレディになるのか……。まあいいや。一生子どもではなくなったわけだしな。はぁ……疲れた。
 その後復活したゆずちーの指示でみっちゃんを外へと連れ出す。

「なんでもあのゆずちーママがみっちゃんに急用らしい。車で5分もかからないってさ」
「ほほー、つまりまたくーちゃんとキ――」

 言わせてなるものかっ! 犠牲者はゆずちーだけで十分だ! と、みっちゃんの口に手を突っ込んだ。

「酷いよくーちゃん!」
「酷いのは君だ!」
「そもそもゆずちーママの急用って何? また爆走するの? ゆずちーママは交通事故に遭わないことを祈ってます」

 ゆずちーママは事故るらしいぞ……。どうするんだゆずちー……。ゆずちーはすでに涙目だ。あんな人でも母親だもんなぁ……。結論から言えば確かにゆずちーママは事故ったさ。そりゃ盛大にな!

 ぶっちゃけ目の前で起こったことが信じられなかった、というか……まともに認識できなかったというべきか。私にとってそれはあまりにも現実離れしてるように見えたんだ。みっちゃんが車にぶつかって派手に何十メートルも吹っ飛ぶ光景なんて……。

「み、みっちゃああああああああああああん!!」

 だから、ゆずちーとは違ってそう叫んでみっちゃんに駆け寄ることも叶わなかった。
 悠々と車から降りてくる1人の女性。紫光院紫。通称ゆずちーママ。

「条件は全てクリアだ。譲葉さっさとみっちゃんを回収しろ、ああそれと……」

 この人がみっちゃんを撥ねたんだ。この人が……こいつが!! と睨みつけたら、目の前にプラカード。

『エイプリルフールどっきり大成功!!』

 …………は? どっきりだと……? えっ?

「な、な……なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「どうだね、この最後のアクロバティックな仕掛けは。まるで本当にみっちゃんが吹っ飛んだように見えただろう」
「みっちゃんは? 怪我とか……?」
「してるわけないだろう。よく見たまえ、血が出ているようにみえるか?」

 若干距離があるものの血だらけというふうには確かに見えない。

「我々はこれからどっきり反省会だ。2人を借りるぞ」
「あ、ああ……」

 ハイスピード展開すぎてついていけなかったぜ。ははっ……。いや、ほら、もっと何かフォローしてくれよっ!! 最後の最後で放置はどうしたらいいのか分からなくなるからやめてくれっ!!
 その後、私は心をリセットするために昼寝した。

 ◇

 翌日、我が家にて。

「昨日のくーちゃんはいろんな意味で面白かったね!」
「まったくだよ! みっちゃんが仕掛け人とかそんな馬鹿な! ありえないだろ!!」
「くーちゃんがそう思うことを想定して、あえてみっちゃんで仕掛けました」
「…てかゆずちー、君はあれだ。どっきりのために体張りすぎだろう」
「うっ……」

 もうあんな嘘が本当になるとかこりごりだな。来年は勘弁して欲しい。


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