みっちゃんワールド #21 寝落ちの話


 そこにお姉ちゃんのグレートな召喚魔法が発動し、召喚獣?の攻撃でシルバードラゴンの鱗を一気に削り取りました。召喚魔法? 召喚獣? いいえ、あれは宇宙戦艦です! そしてあれはビームです!
 なんで召喚魔法でSFになっちゃったんですかねっ!? ここは精霊とか神様とか異界の化物とか呼び出すシーンだと思うんですよねっ!
 しかーし、SFでファンタジーを蹂躙するには威力が足りなかった模様! 銀色のドラゴンはグガアアアアと雄叫びを上げつつ立ち上がり――

「海沼さん、海沼海々さん。起きなさい。起きてちゃんと授業を受けなさい」

 あたし達の戦いはこれからです! みっちゃんと銀の竜 FIN(打ち切りEND)

「ところがどっこい! あたしは寝てなどいません! 机に突っ伏していただけです! だからセーフじゃないかとあたしは思うんですよね」
「アウトです。今回は大目にみますから教科書とノートを開いて準備しなさい」
「ふぁーい」

 古文というのはですね、並行世界の日本の言語であってあたし達が生きている世界の言語ではないんです!
 黒板を見ていたけど何が書いてあって、先生が何を言っているのかあたしにはさっぱり分かりませんでした。さすがは並行日本言語! 凡人のあたしには理解不能だったよ!
 そしてやってくる給食のお時間。あたしはまさにこのために生きてる! なんたって今日はデザートにワインゼリーが出てくるんだよっ!

「みっちゃん、ついにはリアルでも寝落ちか……」
「今朝から随分と眠そうでしたけど、夜更かしでもしたんですか?」

 呆れた顔であたしを覗き込むくーちゃんと、心配そうにあたしを見つめるゆずちー。友達をやめるのなら前者だよねっ!
 もぐもぐ、塩茹で野菜味がしません。だからもっと塩を投入するか醤油をつけなさいとあれほど……! 言ったのは夢の中だったかもしれません。

「昨日の夜、もぐ。夜中にアニメがもぐもぐ……」
「器用なことしてないで口の中空っぽにしてから喋るんだ」

 食べながら喋るスキルをマスターしたいと思う今日この頃。

「夜にアニメが入るという情報をゲットしたからどんなのか見てみようかと思って」
「君はこの前ゆずちーの家であったあの悲劇を忘れたのか!」
「仮に悲劇があったのなら被害者はかんっぜんに私です!!」
「落ち着こうね、ゆずちー」

 被害者がゆずちーだとして、犯人は誰なんですか!? どう考えてもあたし達じゃなくてゆずちーママです。むしろあたし達はゆずちーママの犯行を暴いた探偵です!!

「アニメみたいのなら録画すればいいだろ。何のためのブルーレイレコーダーなんだっ!」
「それはだね、それは……ぐぅ」

 あぁ……急に睡魔が!

「待て待てみっちゃん! 食べながら寝るんじゃない! 学校での二連続寝落ちなんて認めないぞ!」
「リビングにレコーダー置いてるんですからねっ!」
「えっ、あっ……続きですか」
「だからね、ゆずちーの家で見たようないかがわしいアニメが録画されていたら気まずいでしょう! あたしのことを勘違いされてしまったらどうするんですかっ!」
「昨日放送されていたものはいかがわしくなんてありませんっ!!」

 ゆずちーの魂の叫び、……を無視したくーちゃんの一撃があたしを切り裂く!!

「大丈夫だみっちゃん! どんなみっちゃんでも海深さん的にはオッケーだ!」
「あたしがノーオッケーだよ! チェンジですよっ!」
「あの、2人とも……」
「ところでゆずちーとねおちーってなんだか響きが似てない?」
「いくらなんでも無理矢理だろ」
「いいから2人とも私の話を聞きなさい!!」
「イエスマム!!」

 珍しくゆずちーの怒りが爆発したようです!! あまりの剣幕にビビったのはくーちゃんも同じはず! 出口はどこにありましたっけ? あそこですね、いざとなったら……あの出口ではなくて窓からダイブです! 意表をつかないと今のゆずちーからは逃げられる気がしません!

「アニメなんて所詮は二次元。つまりは絵です! しかも放送倫理にガチガチに固められて規制まで入っています。そこまでしているものがいかがわしいもののはずがありません! いいですか、本当にアウトなものはOVAでしか作成されないか、あるいは地上派では放送されないかのどちらかです! 分かりますか!?」
「ゆ、ゆずちー、分かったからゆずちーがアニメ大好きなのは分かったらその辺でやめよう!」
「いいえ、まるで分かっていません! ここはみっちり教え込む必要があります!」

 そしてゆずちーによる『アニメがいかに素晴らしい芸術であるか』をあたし達は延々聞くことになりました。

「お、お昼休みが残り5分!?」
「どうせならもっとためになる雑学とかを語ってほしかったぞ!!」

 これから午後の授業が始まると思うとぐったり具合が半端ないですね……。もうゆずちーの前でアニメネタはやめようとあたしは思いました。きっとくーちゃんもそうでしょう。

「それもこれもみっちゃんが寝落ちなんてするからだっ!」
「ゆずちーがアニメマイスターに転職しちゃったからだよっ!」
「してません!! 魔法少女に続いて変な称号つけるのやめてください!」
「魔法少女は私達がつけたんじゃないぞ!」
「そうだよ! ゆずちーが自ら名乗ったんだよ!」

 子どもの頃に「悠久世界の理に従い悪を捌く! 魔法少女プリチーゆずちー参上!」と自らね!

「う……、そういえば、そうでした……。で、ですが!」
「でもアレを見てなくても魔法少女の称号はついたと思います!」
「みっちゃん!!」

 だってだってー、ゆずちーが杖(らしき何か)持ってる姿見たことありますからねっ!

「そういえば、ゆずちーは夜のアニメ見ようとして待機中に寝落ちしたことはないの?」
「ありません。そもそも私はくーちゃんと同じく夜中の番組は録画する派なんです」
「そんなのダメだよゆずちー!! 真のアニメファンならリアルタイムで見ないと!!」
「そういうセリフを試しに見ようとしただけのみっちゃんが言うのはおかしくないか?」
「おかしくありません。これは世の理です。真理です。世界の答えです」
「うーん、一理ありますけど夜更かしすると翌日に影響が出てしまいますから」
「みっちゃん、よく覚えておくんだ。これが普通の人の判断だ。無理矢理起きてるなんてみっちゃんみたいなバカがすることなんだよ」

 一秒でも早くアニメを見たいという人は絶対にいると思うんですよ! だからあたしに賛同してくる人だっているはず! ネットで募集すればいっぱい見つかると思います! インターネットの力は凄いんですからねっ!

「そういえばこの前チャットしてたら、急にみっちゃんがだんまりモードになったんだがあの時絶対に寝てただろ」
「あたしが起きたらくーちゃんはチャットルームから退室してました! 酷いです!」
「起きるまで独り言を延々呟けとでも言うのか……! そもそも寝落ちするなんて自己管理ができてない証拠だろっ! 寝落ちする前にちゃんと寝るべきだ!」
「だ、だってー!?」
「みっちゃん、授業中に眠ってしまった以上みっちゃんに非があります。寝落ちしないように正しい生活を心がけましょう」

 でもねゆずちー、学校で寝て家で遊ぶというサイクルにあたしはちょっと憧れるんですっ! というわけで、お昼休み終了の鐘の音を聞きつつ、

「さー、お2人さん! ついにやってきました寝落ちタイムだよっ!」
「ボーナスタイムみたいなことを言っているが授業中は眠る時間じゃないぞ」
「ゆずちーならともかくくーちゃんが真面目なことを言うなんておかしいよっ!」
「それはどういう意味だ! 私の成績はともかく授業は真面目に受けてるんだぞ!」
「成績もなんとかなるように努力してください」
「そんなことしたら私も寝落ちしてしまうっ!」
「ウェルカムトゥ寝落ち!」

 結局あたしは睡魔に勝てず、寝落ちして先生に起こされることになったのでした。眠い時は寝た方がいいんだよっ! 
 あたしの意見は却下され、授業は続くよどこまでも。

 その日の夜、

「学校で寝てたのになんでみっちゃんはまたチャットで寝落ちってるんだよおおおおおお!!」

 とくーちゃんが叫んでいたとかいないとか。


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