みっちゃんワールド #13 接触の話


 どうしてこうなった!?
 隣人だけ当たる宝くじ、隣だけ青い芝生。福のない残り物。偽装された賞味期限。魔法少女と超能力者の友人を持つ凡人! 世の中には理不尽が溢れているのはあたしだって分かってる。
 わかってはいるよ! でもいくらなんでもこれはないと思うんですよっ! やだーたすけてー!

「泣くな、喚くな! ぶっちゃけいつかはこうなると思ってたんだよ私は!」
「思っていたのなら言ってよ! 言ってくれないとあたしには分からないよっ!」
「言わなくても未知のパワーを使ってる時点で事件になりそうな可能性くらい考慮してくれ」
「取り敢えずゆずちーを呼ぼう!」

 ケータイに手を伸ばそうとしてそれが実にやり難いことに気付く。ケータイを入れているスカートの左ポケットに手が届かない!!

「くーちゃん、手を貸して! 文字通りに! 左のポケットにケータイあるから!」
「よかろう緊急時だ。君と共同戦線を張るもの止むを得ないだろう」
「手、動かし難いね……」
「感覚がよく分からん。でも動く。気持ち悪いなこれ」

 なんとかゆずちーに電話。事情を「融合事故」の四文字で説明して、学校の屋上に呼び出しました。

「見ての通りだ! 私の右手とみっちゃんの左が合体して分離不能になった!」
「というか完全に重なって1本になってるのに指6本とかいうわけわかんないことに……」
「あわわわわわ……」

 口元を両手で覆って座り込むゆずちー。うん、分かるよその反応! でも頼れるのもゆずちーしかいないんですよねっ!

「助けてゆずちー!」
「この際みっちゃんの腕を肩から切り落としてもいいからこの状況をなんとかしてくれ!」
「えっ!? 卑怯だよくーちゃん! 自分だけ腕を取り戻そうとして!」
「かわりにゆずちーをくれてやる」
「オッケー! 腕よりもゆずちー欲しい!」
「あの……みっちゃん、それはあんまりにも考えなしといいますか。……あ、取り敢えずお母さんに連絡してみます」

 ゆずちーママの暴走特急@後部座席に詰め込まれてあたし達は紫光院総合病院へと連行されました。

「お前さん達は面白い逸材だと思っていたが、ついには非日常にまで足を突っ込んだか。下手なバラエティ番組を見てるくらいならお前さん達のプライベートを覗いていた方が面白そうだ」

 変なことを車内で言われたけど、そんなこと気にしてる場合じゃない! スピード、スピードォォォォ!! 警察が追いかけてこないのが不思議です……。公道を時速120キロで走る人なんて初めてみたんだよっ!

「私は幼い頃からこの運転を経験しているので慣れてます」
「これは夢だ。全部夢だ。みっちゃんと合体なんて夢だあああああああ!」

 くーちゃんもいい感じに壊れてきたところであたし達は病院地下に到着。そのままどこぞの部屋へと連れていかれました。

「つまりは、お前さん達が二人同時にテレポートしたら腕がくっついたわけだな」
「端的に言えば……」

 180度ターンでゆずちーと同じ長い髪が蛍光灯の光を反射する。キラキラと。そこに幻想とかをまったく感じられないあたり、この人が大人ってことなのかなぁ。ゆずちーなら天使っ、妖精ってふうに思うときあるのに。

「よくぞ身長差を無視してこうもうまく結合したものだ。何らかの怪異絡みと考えた方が無難か。いいだろう、取り敢えず検査だ。金属的なものは全部外せ、そうだ制服も脱げ、ケータイも時計もだ」

 考える、という動作をしているようにまったく見えない素早いセリフにあたしは圧倒されちゃったよ!
 謎の機械に放り込まれてレーザー的な何かでスキャンされました。

「分離は可能だな。物理融合はどうしようもないレベルだが、アストラルリアルでの結合は認められない。マニューバ持ちなら5秒で修正できそうだが、そんなレアモノそうそういるわけがないしな。精神融合の域に達していないことを考えれば、放置していても半年ほどで勝手に分離しそうなものだが……」

 スキャン中に白衣を着込んだらしいゆずちーママは医者っぽくないことを言いました。むしろもっとSFなことを言ってるんだと思います。

「何を言ってるのか分かりませんけど、治るってことでいいのんですよねっ?」 
「ああ、施術さえすれば元通りだ」
「すれば……って何かあるってことか。なんだよ条件つきかよ!」
「私は医者だぞ。治療費貰ってナンボの商売だ。施術費用はそうだな、150万くらいに負けておいてやろう」
「たっか!! 中学生にそんな金払えるかっ!! みっちゃんの腕を切断してくれっ!!」
「金が払えないのなら体で払ってもらおうか」
「か、体でって……あたし達に一体何をさせるつもりなのっ!?」
「何、簡単なことだ。一瞬で終わる」

 続きは、まだなのっ! ゆずちーママは言葉をそこで一旦区切り、大きく深呼吸をしてます。むむっ、何がくるのか気になる、怖い、逃げたいですっ!!

「くーちゃん、みっちゃん。そのまま見詰め合ってキスだっ!!」

 何を言ってるのか一瞬分からなかったよ!!!

「ど、どうしてみっちゃんとそんなことしないといけないんだ! それに一体何の意味がある!?」
「意味などあるものか。言うなれば私の、紫光院紫の趣味だ!!」

 言い切りましたよこの人!

「お前さん達が私を満足させられるキスシーンを演じたのならただで施術してやると言っているんだ。どうせ同性だ。お前さん達の中ではノーカンみたいなものだろ」
「お、おおお……お母さん!! いくらなんでもそれは……!」
「等価交換の原則を忘れてたのか譲葉。あれほど教え込んだはずだがまだ足りないと?」
「うっ……」

 この人、ゆずちーママは本気だ。

「どうするみっちゃん」
「やれば治るんだよねっ! いいよあたしはやってもいいよ。どうせファーストキスじゃないしねっ!」
「待て、ちょっと待て! お前のファーストの相手は誰なんだ!!」
「お姉ちゃん」
「…………だよな。よく考えれば分かることだったよな。ちくしょーいいよ、やればいいんだろう! こんちくしょー!!」

 あたしはちょっと面白げに、くーちゃんは嫌そうな顔で唇を触れそうに……なったところでゆずちーママからのダメ出しが!

「ストォーップ! そんな嫌そうな顔でのキスシーンなんて私は望んでいない! もっとこう幸せいっぱいハッピーって顔で」
「恐ろしく難しいことを平然と要求してくるあたりたしかに150万円だよなっ!!」

 そしてテイク2。

「かりんちゃん愛してるよ」
「ちょっとおまっ!?」

 驚いているくーちゃんにそのままキスしてみました。

「ありだ! 今のは凄くありだ!!」

 騒ぎながらデジカメとビデオカメラを操作している人がちょこっと視界に入ったけど、気にせず次のステップだよっ! 舌をねじ込んでみましたァ!! 本気で逃げようとするくーちゃんを体のうちから沸いてくる謎のパワー(右手1本)で抑え込むっ! なんか快感になってきた!! もうこのまま行くところまでいっちゃおっかー!!

 左手でグーパンされたことであたしは正気に戻ったものの、体がくっついてる関係でくーちゃんごと床に倒れました。あたしが下、くーちゃんが上。サンドバッグフラグですね、分かります。

「貴様というやつは貴様というやつはっ!!」
「痛いっ、痛いよおおお!!」

 マジ泣きしながらあたしを片手でフルボッコにするのはおやめください。このままではマジに亡き者になってしまいます……。そして視界は暗転。

 気が付いた時には施術は終わり、くーちゃんと分離していました。

「手術終わったんだねくーちゃん!」
「みっちゃん……後で両手使って殺すから」

 おおう…。いい笑顔で殺人予告。は、早く逃げないと!!

「医者の話は聞いておけ。死にたくなければな」

 医者から死って言われると緊張するよねっ! そんな経験今までなかったけど!

「みっちゃん。お前さんは腕にアストラル的な異物が入り込んでいる。時間経過で自動的に分離するはずだが、何かあればまた言うがいい。放置しても死にはしないと思うが、異常動作を引き起こすかもしれん」

 次はお前だ、とくーちゃんに厳しい視線を投げかけるゆずちーママ。ちょっと怖いです。

「くーちゃんのテレポーテーションは後付け、何者かによって移植された怪異だ。不正なユニット装着は致命的エラーのトリガーになり兼ねない。そもそも何をエネルギーとして発動しているのかも不明。魂や寿命を削っていれば死に近付くことになる。今後の使用は制限すべきだろ。命を賭けてもいいと思った時にだけ使え」

 それからあれこれ言われた後に撮った写真と映像が大公開されて、あたしは物理的な公開処刑に、くーちゃんは精神的な公開処刑に処されたのでした。

「あー短い天下だったな。さようなら、超能力生活……」

 そしてくーちゃんは凡人に……

「くーちゃん遅刻しそうなんだよっ、テレポーテーションで迎えに来て!!」
「あたしに死ねというのかこいつはっ!!」

 翌日、くーちゃんタクシーにボイコットされてしまったためにあたしは遅刻しました。


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