みっちゃんワールド #2 雲の話
「私、くもになりたいです」 8時15分。眠くて机に突っ伏していたらいつの間にか登校してきていたゆずちーがそんな発言をしました。 「えっ? ゆずちー蜘蛛になりたいって!? いくらなんでもそれはない! ゆずちーは蝶々にしておきなさい! 蜘蛛になるのはみっちゃんで十分!」 あれ? いつの間にかくーちゃんもいる!? 「なにそれ? あたしが超器用ってこと? 腕6本分の仕事します、的な?」 えっ? あれ? 昆虫って6本足じゃなかったっけ? あれ? あれっ!? 「う、腕が6本、足2本だと思います! 現実的に考えて!」 空の蜘蛛……もとい雲。あの白いワタアメみたいな雲かぁ。雨の源であり、あたしをびしょ濡れにする元凶でもあるにっくき雲!! なんで!? どうして雲になりたいの!? いずれは地上に激突して死ぬ運命だよ!! 「ゆずちー考え直そう! 死ぬのはまだ早いよ!」 よーし、と言いながらくーちゃんがあたしの背後に。そして、肩を思いっきりぎゅっと!! 「いだだだだだだだだ!!」 しばらく玩具にされてあたしはもうダメ……。雲のように流れて消えたいです……。 「だ、大丈夫ですか? みっちゃん……」 心配してくれてありがとうねっ! そしてよくもやったなくーちゃん! このお返しは……そう、一ヶ月くらい後にねちねちとしてやるーっ! そうだっ! 体育の授業中の柔軟体操で酷い目にあわせてあげます! 「二人とも考え直せ! 雲は、白くてゆったりしてる雲以外にも、真っ黒でゴロゴロ言ってる危険な雲だってあるんだぞ! 感電するんだぞ! 救急車だぞ!」 くーちゃんが土下座してるところなんてとっても久しぶりにみたかも。 「よしっ、さっきのお返しに言いつけます!」 正直何を言ってるのかよく分からなかったけど、多分あたしのことをバカにしてると思う。ゆずちーならともかく、くーちゃんにバカにされるのは納得いきません! テストの点数だって似たようなものなんです! ゆずちー視点でならくーちゃんも立派なバカにカテゴライズされるんだから! 「そうそう、富士山の上の方まで上ったことがあるんだけどさ」 あたしの問いを無視して新しい展開に持ち込ませるわけにはいきません! 「その通り、私はバカだ。でだ、富士山の上まで行ったんだけどさ」 あっれー? 流れが止まらないよぅ……!? これはもしかして流れに乗らないと乗り遅れてハブられるパターンですかっ!? じゃあ乗っかります! 「上ってどこ? 頂上まで行ったの? 宇宙まで行ったの?」 土産話って大抵はいいなぁとか羨ましいなぁとか、妬みとかしか生まないけど、物理的なお土産は感謝と笑顔を生むんだよ! だからあたしの笑顔成分を補充するためにも真っ当なお土産が必要なんです! 「分かった分かった。今度どこか行ったら買ってくる。だから今は話を聞け。とにかく上の方まで行ったんだけど、そこまで行くと雲が近くをびゅんびゅん猛スピードで飛び回ってるんだよ」 今のえええはゆずちー魂の叫びである。 「そういうことだ! しかし今のゆずちーを見ろ。筋力も持久力もないこのほっそりとした体!」 いつ泣いてもおかしくないような顔してるよっ!? あたしの発言が恐らく原因なんだろうけど、でもそのおっぱいはちょっとずるいと思いました! あたしも早くボーンと大きくなって欲しい! 「とにかくだ。ゆずちーはまずは走るべきだ! 分かったなゆずちー! お昼休みはマラソンだ! 校庭20周だ!!」 泣きそうな表情のまま青くなっていくゆずちー。まるで雲じゃなくて青空だね。……そんなわけないですよねー、真っ黒な雲って表現した方がピッタリですよねー。 そしてゆずちーはお昼休みに校庭で給食を吐いた。 「ううっ……わたし、雲になんて絶対になりたく、ありません……」 保健室行きのゆずちー、職員室で怒られる我々。 「雲、恐ろしいな」 |
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