キャッツorドッグス


 猫か犬か。
 それは古今東西究極の派閥争いであり、一種の宗教戦争と言っても過言ではないわ。そう、場合によっては猫派、犬派の争いによって死人が出ることもあり、時には犬猫戦争にまで発展して戦火は拡大した。

「犬共を駆逐してやる……この世から……一匹、残らず……!」
「とにかく猫をぶっ殺したいです」

 などの迷言も炸裂したらしいわね。

「ねーよ! いくらなんでもそこまでの事態には発展してねーよ!!」
「なによ弟。今はそういうアレでしょう」
「そうだけど、そうじゃない!」

 この世にはとんでもない不思議が隠されているけど今はそれを論じる必要はないわ。過程なんてどうでもよろしい。なので結果だけお伝えしましょう。我が家に猫耳幼女と犬耳幼女が現れました。以上、終わり。

「猫はかわいい、犬は可愛くない。それが世の摂理よ」
「犬にだってな、犬にだっていいところはあるんだぜ! それを今から教えてやるよ!」
「ふ〜ん」

 猫耳をふにふに触ると幼女は気持ちよさそうににゃ〜と鳴いた。

「オレの話を聞けええええええ!!」

 弟が犬耳幼女に噛み付かれた。煩かったのかも。

「いってええええええええ!! オレ、お前のために言っているんだからなっ! 噛むな、やめろ!!」
「ほらみなさい。猫との犬の差がこれよ。大人しいは正義、凶暴は悪。それが第一印象というものよ」
「第一印象なんてようするに飾りみたいなもんだろ。飾りばっかりで中身がまるで見えねえだけだ! つまりあんたの目は節穴ってことさ!」
「言うじゃない弟の分際で。まあ若造は勢いが全てって感じだしねえ」
「オレたち双子だったような気がするんですけどねえ!? なんでこの人は年上ぶってるんでしょうかねえ!?」
「はーい、猫ちゃん。今度は尻尾触らせてね〜」

 ピンとたった尻尾に手を伸ばそうとしていたら、

「聞けよ!」

 チッ、邪魔が入ったか。

「犬っ娘でももふってなさいロリコン」

 噛むのをやめて尻尾フリフリしてる幼女がいるじゃない。ほら、もふれその尻尾を!

「この世はおかしいよな! 幼女の相手をするのが女なら何の問題もないのに性別が男になっただけでロリコンだの変態だの言われるもんな!」

 まあ私もそれはちょっと思ったことあるけど同性であることはかなり重要な要素なのよ。力が無い分女は社会的には有利ってことでいいんじゃないの?
 それにやっぱり触れるだけならまだしも幼女とお風呂とかとなると話が変わってくる。そういうのが許されるのは実の父親とか兄とかだけよね。弟? 論外だわー。

「それよりも犬のいいところはどこにいったわけ? やっぱりなかったのならそう言えばいいじゃない」
「始めから耳を傾けていれば無駄に時間かからねえよ! このバカ姉貴が!」
「何? やろうっての? お姉ちゃんこう見えて殴りあいなら得意よ!」
「凶暴は悪で犬なんじゃなかったっけ?」
「なんちゃって。私は見た目通りの淑女だから安心してね、猫ちゃん」
「猫かぶりって意味なら猫なのかもしれないが」
「ああん?」
「なんでもありませんマム。……じゃねえ!! 犬だよ犬。いつまで脱線させるんだ!!」

 そして始まる弟の犬語り。

「ワンコはなあ、一見凶暴に見えるかもしれねえがそれは警戒心の表れだ! 身内にはメッチャ甘々なんだぞ! 一人ぼっちで寂しいときに擦り寄られてみろ! 最高だぞ!」
「あんた友達いないの? マジで寂しいやつね」
「うるせー!! 犬は忠実なんだ! ハチ公のエピソードくらい姉貴だって知ってるだろ!」
「彼女が出来る予定なんてどうせないんだからその幼女を好きに育てて嫁にしなさいよ。最高のお嫁さんとして尽くしてくれそうじゃない」
「何さらっと光源氏計画推奨してんだよ!! 姉貴だって彼氏いないんだから将来の心配しやがれ」
「彼女ならいっぱいいるからご安心を」
「なん、だと……」
「そういう意味でも私は猫が好きだわー」

 ふっふっふ、普段はツンとしていもベッドの中では可愛く変貌……そんな子も結構多いのよね。たまに逆な子がいるのも意外と楽しいわー。

「何さらっと爆弾発言してんの!? もう爆発しろよ! リア充爆発しろよ! リアル充実してるんだから犬耳だってもういいだろ!?」
「脈絡どこいったいのよ……。そもそも犬耳は垂れててなんか可愛くないわー。どうせ可愛い犬耳っ娘なんて存在しないわよ」
「なんだとこの! ミルヒオーレ姫に謝れ!! 全力で土下座しろ!」

 あー、あのピンクの。

「犬の忠誠心がどれほどか知りませんけど、それって姫じゃない。トップじゃない! 忠誠される側なんて論外だわ」
「ぐっ、なら……そう。宮藤、宮藤芳佳だ! 素晴らしい小犬っぷりを発揮してるだろ。それにトゥルーデを見ろ! 最初はキツイ物言いだが、身内と認識した途端に甘やかすようになっているだろ」
「それただのツンデレじゃないの?」
「ちげえよ! 犬だよ! ドッグだよ!!」
「そういう面倒な要素お断り。見なさいこ子猫ちゃんを。余計な攻略とかしないでもこれよ。ロッテリア最高」
「リーゼ姉妹をおかしな略し方するなっ! それにあの姉妹は性格的にダメだろ!! そこの子猫がああなっちゃったら嫌だぞオレ!!」
「他人を犠牲にしようとはしてるけど、ちゃんとご主人様には尽くしてるじゃない。あんたの言う犬と同じじゃない」
「あれはなんか違う。ご主人様に尽くすっていうのはアルフみたいなのを言うんだよ!!」
「アルフって犬だっけ?」
「あれ……? 狼だっけ。どっちでもイヌ科だ!!」
「何にせよよ、猫耳キャラに比べて犬耳キャラが少ないのは魅力を感じないからだと思うの」
「なっ、なっ……それは、違う!! 時代が追いついてないだけだ! 数年後には猫耳は淘汰され犬耳の時代が来る!!」
「大丈夫。黒猫や東雲千夜子みたいなのが延々頑張ってくれるから」
「またなんともいえないチョイスを……!」

 東雲千夜子っていうのはあれよ、黒猫の原型キャラ。性格とかまったく同じなのよね。

「某MMOではキャットを使っていた私に何か文句でもあるの?」
「もう全然関係ないよなっ!!」
「大体ですね、二次元は可愛い。それは認めましょう。だって、そうじゃないと売れないもの」
「うん、まあ……急に現実的な話に」
「でも二次元はオッケーでも三次元はダメってパターンよくあるんでしょう? あんたのHDDの中身とか見てるとよく分かるわー」
「ちょっと、あんた何しちゃってんの!? パスワードどうしたんだよ!?」
「二次元のエロ画像が何百枚もあるのに三次元の画像が一つもなくねてお姉ちゃんは弟の将来が心配になりました」
「うわああああああああああああああああああ」

 崩れ落ちた弟をペロペロなめだす犬耳ちゃん。ふむ……確かに三次元の犬っ娘は二次元と違ってありかもしれないとこの瞬間に思いました。でもやっぱり猫でしょう。猫っ娘なら私の胸の中でお休み中よ。これだけ騒いでいても眠れるあたり流石だわ。

「うん、でもやっぱり三次元の犬はありえない。私を納得させたかったらケルベロスでも連れてくることね」
「ケルベロスは最早怪獣だろ!」
「お早い復活で」
「パスワードは絶対に変えてやるからなっ! もう姉貴の暴挙は認めないからな!」
「かませ犬の分際で何を言っちゃってるのかしら。いい加減諦めなさい。私があらゆる意味で有利であり、私が猫派であるという事実は崩れません」
「ちくしょおおおおおおおおう」

 再び崩れ落ちた弟を眺めつつチェックメイトを告げる。

「いい加減本音を口にしたら?」
「オレも猫耳幼女を抱っこしたいです……」

 つまりこれが顛末である。弟も私の猫ちゃんが欲しかった。だから犬を私に押し付けようとした。うん、哀れなのは犬耳ちゃんか……。

 それから数日後、意外と犬耳ちゃんと仲良くしてる弟を目撃。よし、その調子よ、弟! と思っていたけどちょくちょく機嫌を損ねては噛み付かれている模様。あんた、もしかして群の中では格下だと思われてるんじゃ……。
 まああんな弟だしね。仕方ない。頑張って未来の嫁を攻略したまえ。

「ちげえっ! これは仕方なくやってるんだ!」
「一緒にお風呂入ったり、一緒にベッドに入ったりしてるくせに」
「そんなところばっかりピックアップするな!! 姉貴だって猫とやってることだろう!!」
「性差」
「消えてしまえこんなクソな世界……」

 さあ猫ちゃん私ともっと仲良くしましょう。貴女は私の未来のお嫁さんなんだから〜♪

「この姉は既に手遅れだが、なんとかしないわけにはいかないよな……。猫耳の被害者を出す前に」

 姉vs弟はまだまだ続くよっ! ってことね。

/元ネタ/

ミルヒオーレ姫/ドッグデイズ
宮藤芳佳、トゥルーデ(バルクホルン)/ストライクウィッチーズ
ロッテリア(リーゼロッテ、リーゼアリア)、アルフ/魔法少女リリカルなのは
黒猫/俺の妹がこんなに可愛いわけがない
東雲千夜子/ねこシス
キャット/トリックスター


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