異世界コミュニケーション #4 よみは電子世界の夢を見るか?


 コラールシー攻略戦に敗北したあたしはもうチャットなんてやめてやるーっと不貞寝していた。……なんてこともなく今日も元気にオンラインである。
 そもそもコーラルを説得できたところでワープが完成するわけでもないし。こう言ったらなんだけど異世界人といえ所詮は個人。神様でもない限り個人でできることには限界がある。……あるはずだ。

空飛ぶ蛇君>一度全部焼き払ってこそ新しい芸術の可能性が生まれるんだよ
プリンちゃん>芸術は、爆発だー

 それは地球人が言った言葉だったとあたしは記憶しているんだけど……。

メルル>で、蛇君が焼き払った町に芸術は生まれたの?
空飛ぶ蛇君>芸術は完成するのに時間がかかるんだよ
メルル>てことは現状だとただの放火魔じゃん……そのうち殺されたりするんじゃないの?
空飛ぶ蛇君>大丈夫大丈夫、人間弱いから
プリンちゃん>ドラゴンの鱗、いい防具になる、って人間言ってた
空飛ぶ蛇君>!?
プリンちゃん>ドラゴンの角、いい剣になる、って人間言ってた
空飛ぶ蛇君>ぼ、僕は悪いドラゴンじゃないよ

 それはプリンちゃんがいうべきセリフだと思う。ファイヤーワークスが悪じゃなかったら一体何が悪なのさ。

メルル>蛇君を討伐すればいいお金になりそう! 一生遊んで暮らせる!
空飛ぶ蛇君>たとえ僕を倒そうとも、第二第三の僕が現れて村を焼き払うよ
メルル>第二第三のドラゴンは現れそうだけど……
プリンちゃん>デイノス感染、弱体化している間にザクっと
空飛ぶ蛇君>デイノス怖いデイノス怖いデイノス怖い

 うちもそろそろデイノスバスターを最新版にした方がいいかもしれない。というかパソコンを買い換えたいわー。今まで我慢してたんだし、ここはドーンとなんでも入ってるハイエンドモデルが欲しいです!

メルル>デイノス対策には結界はると良いってエルフちゃんが言ってたよ
空飛ぶ蛇君>あー、結界 僕そういうの得意じゃない
プリンちゃん>みんな知ってる
空飛ぶ蛇君>だよねー メルルはどうやって防いでるの?
メルル>デイノスバスター8がバリバリブロックしてるよ、対デイノスプログラムが
空飛ぶ蛇君>コーラルシーが似たようなこと言ってたけどよくわからないよ、デイノスって炎で燃やせないしどうしようか
プリンちゃん>対策は、何もしてない。分離型だから、大丈夫と思う

 スマホだもんねプリンちゃん。どこでどうやってスマホを手に入れて、どうやって使ってるのかまったく想像できないけどスマホだもんね。

空飛ぶ蛇君>そのスマホだっけ? どうやって手に入れたのさ
プリンちゃん>いきなり、魔法陣が出てきて、召喚された
メルル>なんだってー!! そうだ召喚! あたしをそっちに召喚してー!!

 二次元にはいけなくてもファンタジー世界にならいけそうな気がしてきた! もしかしたらあたしの夢が叶う日も近いのでは!? SFで不可能な異世界移動、ファンタジーならやってくれそうじゃん!

プリンちゃん>召喚魔法、使えない
空飛ぶ蛇君>炎なら吐ける
メルル>ダメだこいつらなんの役にも立たない
プリンちゃん>メルルほどじゃ、ない
空飛ぶ蛇君>メルルは炎も吐けないよね
空飛ぶ蛇君>僕ちょっとサイト更新してくるね
メルル>火炎放射なんてできたら社会がまるっとかわるわっ
メルル>おつかれー
プリンちゃん>おやすみ

<空飛ぶ蛇君様が退室しました>

メルル>ところで気になったんだけどスライムってどうやって増えるの?

 よもや有性生殖ということはないだろう。……いや、でも光合成してるし、植物的な方法で増殖している可能性もあるのかな?

プリンちゃん>魔力溜まりから、自動的に、生まれる
メルル>細胞分裂じゃないんだ
プリンちゃん>生まれた場所の、属性で、性能変わる
メルル>なるほど。生まれた環境によって強かったり弱かったり光合成できたりするのね
メルル>プリンちゃんはダンジョン生まれでいいんだよね?
プリンちゃん>そう
メルル>発電能力とかなんで持ってるか分かる?
プリンちゃん>しらない、でも、アパトサウルス昔いた

 なんだそれ……。
 なんか恐竜みたいな名前だなぁーと思って検索してみたら意外にもヒット。日本では雷竜の別名を持つれっきとした恐竜らしい。……いやいや、名前だけじゃん。実際に体中から放電したわけじゃないでしょー!! まだ電気うなぎ的生物が存在したといわれた方が納得できたのに。いや、しかし異世界だ。名前がたまたま一致しただけでまるで違う生き物という可能性だって……!

<よみ様が入室しました>

よみ>こんにちは
プリン>よみ、久しぶり
メルル>何してるのさー

 と首を回して後ろに視線を送る。そこにはあたしの趣味でメイド服なんてものを着込んでいる大人の女性「よみ」の姿が。彼女はネット接続にパソコンを用いない「結合型」である。
 それもそのはず。よみ……正式名称は月詠。彼女は生活補助ロボット(ガイノイドタイプW2-24)なのである! そう、ロボット!
 でも生活補助とかお堅い名前は断固拒否! 敢えてあたしは言わせて貰おう! メイドロボであると! 25世紀ともなると個人でメイドロボやら執事ロボやらを所有ことすら可能なのです!! 買うと高いけどねっ! あたしの場合は孫馬鹿のじーちゃんばーちゃんがあたしのことを凄く心配して買ってくれました。めっちゃ愛してるよじーちゃんばーちゃん!

 そしてそのよみ。たまにこうして勝手にチャットに入り込んでくることがある。基本命令待ちのロボットが、ですよ。これはAIが市販品そのままじゃなくて、技術者であるお父さんによって改造(弟曰く魔改造)された結果である。お陰で助かってることも多いけど、何気に勝手な行動も多すぎる。人間みたいなAIを目指したにしても所有者の意向を度々無視するのはどうなのかと。

よみ>たまにはわたくしも混ざりたい気分に
メルル>気分とか……

 昔はロボット関連で色々と揉めたらしい。法律とかあまりにも人に近すぎるAIの存在が危険視されたりとか。今だと高度なAIには人間と同等の権利の一部が与えられるようになっていたりと、法律的には余裕が見える。
 見えるけど制限がゼロという意味じゃない。所有者ははっきりしてないといけないし、所有者のいないアンドロイド・ガイノイドの存在は認められない。発見され次第回収処分となる。
 そして所有者側としては視覚的にロボットであることが分かるようにしなくてはならない。ゆえによみは人にあらざる青い髪をしているのだ。しかもこの髪、若干発光している。人間が髪を染めただけではこうはなるまい。

プリンちゃん>気分、大事! 今日、気分で森にきた!
メルル>マイナスイオン!
よみ>森とマイナスイオンの結びつけは短絡的です。森には野生動物がいるかもしれません、お気をつけください
プリンちゃん>問題ない、分裂してやっつけた
メルル>分裂!? プリンちゃんぱねえッス……

 発電、光合成、再生、分裂にスマホを扱う謎技術。スライム(笑)と馬鹿にできない超高度な生命体がパソコンの向こう側にいるよっ!!

プリンちゃん>4つに分裂、後で合体した
よみ>思考がどうなっているのかとても気になります。マルチタスクとも違うのでしょう
メルル>あたしも何か特技が欲しいよ
メルル>現実で何もできなくてもいいからパソコンで絵をかけるとかDTMな才能とか
よみ>何事もやる気と勉強です。しかしやる気はあるのかないのか分かりませんし、勉強はお嫌いと……
メルル>あたしは真っ当に受験して真っ当に合格通知貰うくらいには勉強しましたからね!? 4月からは高校生だって忘れてませんかねよみさん!

 口で言えばいいことだったのにあたしはなぜチャットに文字を打ち込んでいるのでしょうね!!

プリンちゃん>メルルも、頑張って、生きてるんだな
メルル>もちろん! できることは普通の人よりも少ないけどそれでも多少なりとも努力はしてるしこれからだって目的のためには卑怯な手段だってなんだってやっていくつもり!
よみ>反社会的な行動は慎むようお願い申し上げます
メルル>あたしをなんだと思ってるのこいつ

「大切なわたくしのお嬢様です。どうしても、と言うのであれば地獄の果てまででもお供致しましょう」
「……ガイノイドのくせに」

 たまにそういう心に響くことを言うのがなんかムカツク。友達少ないあたしにそういうこと言うの禁止っ!! 禁止ったら禁止!!
 微笑むよみの顔を見たせいで、頬が熱くなって変な気持ちが込み上げてきた。あーもう!!

メルル>そろそろ更新されてると思うからファイヤーワークス見てくる!!

 絶望的大火事を見てちょっと落ち着こうと思う。


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